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オーシャンニュースレター

第358号(2015.07.05発行)

第358号(2015.07.05 発行)

サノヤスの「人づくり」人財重視の経営

[KEYWORDS] 造船業/人財重視/技能継承
サノヤス造船社長◆上田 孝

企業活動の源泉は「人」にあるという信念のもと、100年企業の改革を「人財論」をベースに断行。
行動指針としての「二つのカエル」を浸透させ、人事制度改定・社員教育を刷新するとともに、造船業のイメージを変える広報活動と採用の安定化等により、技術開発・造船技能継承を図り、変化対応力に優れた企業づくりを行っている。


企業は人なり

造船業界は、変化が常態化し、そのうねりも大きくて激しい先行き不透明な経営環境下にある。熾烈なグローバル競争に打ち克ち、生き抜くために必要なものは何か、それは「人」であると私は考えている。人は「人材」であり、また「人財」でもある。「人材」とすれば、それは人件費(コスト)であり、コストは低く抑えるほど企業にとってはプラスとなる。一方、「人財」はバランスシートには載らない資産である。人は磨けば成長し価値が高まるが、劣化すれば不良資産になることも往々にしてある。「人財」が最も重要な経営資源であるという考え方を軸に据えて、私は経営の舵を取っている。
また「企業(あるいは事業)は人なり」と言うが、まさにこの「人財」の優劣が企業の盛衰に係わるという意味で、企業のための人財という意味が一つ。もう一つは、企業は何のために存在するのかということ。企業は社会の発展のため、そこに働く人の幸せな人生を実現するための公器として永続的に発展しなければならない。二つの意味合いで「企業は人なり」が重要だと考えている。

二つのカエル

社長就任時より、サノヤス社員の行動指針として「二つのカエル」を社内で徹底している。
まずは「基本・原点に還る」≪Back to the Basics≫、二つ目は「(変化に応じ)自らを変える」≪Change≫ということである。100年企業には良い伝統や歴史がある一方、所謂マンネリや思い込みもある。サノヤスを発展させるためには現状突破をどう進めるか、変化の時代に生き続けるには自己変革が重要と捉えた。ただ、現状(今あるもの、考え方、やり方)の変革を新参者の社長が言い出すと、現状否定・前例批判に聞こえる。そうではなく本来の意味・やり方を思い出すことが大事という風に言い方を工夫し、まずは「基本・原点にカエル(還る)」ことを強調した訳である。
では「基本」とは何か。以下の四つをサノヤスの基本とした。
Quality」:品質・性能において世界最高レベルの製品を造ること、その裏付けとなる技術力・現場力(Quality)を磨き込むこと。
Cost」:コスト競争力をつけ、一定の利益を稼ぎ出すこと。適正な利益は企業が生き残るための最低条件。
Safety」:「安全第一」、製造業において「安全は全てに優先する」ことは基本中の基本。
Team Sanoyas Spirit」:設計・工作・営業・資材・本社等々、サノヤスのモノづくりは個々人のレベルの高さとその組織力が大事、よってチームワークが基本。
常に基本に還ると共に、自らをカエル(変える)こと、即ち「自己変革」の必要性を日々感じている。同じことを繰り返すことも大事ながら、常に新しいものにチャレンジし付加価値を高めていかなければ、顧客や社員の満足度は下がってくるはず。私はWe must change to remain the same.という言葉をいつも心に置いている。

人事制度改定と教育の徹底

造船技能継承の様子

水島製造所(岡山県児島)

人を大切に思い、育てることを基軸にする「人財重視経営」「人づくり」を実践していく上で大事なことは何か。器としての制度に手を付けることにし、5年前、人事制度改革を断行した。それまでの年功序列型・不透明な(分かり難い)制度を、目標管理型・ポストリンク型・見える化(分かり易い)制度へ抜本的に改定を行った(新人事制度導入:管理職2010年、一般社員2012年)。
また、「人づくり」を企業の文化に引き上げるためにも、集合研修を徹底的に行うことにした。それまで新入社員研修と新任管理職研修しかなかったが、各階層別(部長クラス、課長クラス、主任クラス、等々)、年次別(50歳代、40歳代、入社7年目、3年目、1年目秋、等々)、営業力強化研修、現場(工作部技能職クラス)リーダーシップ強化研修等々、原則は水島製造所(岡山県、写真)の研修センターで一泊二日、一日目の夕刻は社長講義、そして夕食懇親会(メーカーは酒が入ると実に生き生きと本音トークをする人が多い)、6年間毎年内容を変えながら、今年も継続中である。

「逆張り」安定採用

サノヤス造船番長CM

一般に好景気の時は、サノヤスレベルの中堅企業は採用で苦戦することが多い。水島製造所の現場は高卒(技能職)を採用しているが、近隣には有名大企業が多く、採用には大変苦労してきた。そのため以前から地元TVでCMを流して知名度アップを図ってきたが、5年前にそれまでのCMを一新「造船番長」というアニメCMに変更した。余談ではあるが、このCMは造船業の「きつい、危険、汚い」という所謂「3K」職場なイメージを払拭し、若い世代に「タフで、ワイルドで、勇敢な」仕事であるという認識を与えることに成功しているとの主な理由で、カンヌ国際広告祭でシルバー賞を受賞した。また、2年後にはその続編「造船係長」を創作しTVやネットで配信した。これでサノヤスの知名度はグンと上がり、1970~80年代アニメ風の表現方法が高校生からは新鮮で、親世代からは懐かしく、親子2世代にわたって親近感を持って受け入れられたこともあり、地元からの安定採用に大きく寄与したように思う。
一方、大卒・高専卒採用についてであるが、やはり学生の立場としては当然有名かつ大手企業に就職したいと考えるのが常である。BtoB企業であり決して知名度が高い訳ではないサノヤスには、好景気の状況下では大手企業に採用で勝つことは難しい。そこで、リーマンショック後に大企業が採用を抑えたことをチャンスと捉え、(大企業とは反対の)「逆張り」採用方針を取ることにした。退職補充分しか採用しないという考えを改め、質・量ともに拘った安定採用(この7年平均:事技職@17名+技能職@18名=@35名)を続けた結果、総人員は増えたが、これは正に「人財投資」であり、技術開発部門の強化や現場のスムーズな技術伝承に繋がっている。また大学の先生や就職部の方から「景気に左右されず安定した採用を行なっている会社」という好印象を持って頂くことができた。この信頼関係を生かしながら、今後も継続的な安定数の定期採用を行なっていきたい。

人財重視経営

サノヤスは、企業理念として創業者の『まごころこめて生きた船を造る』およびHD(持株会社)体制移行後の全社共通スローガン『確かな技術にまごころこめて』を定めている。グローバルな技術開発競争に負けないことが求められるが、その技術の担い手は「人」であり、企業経営上「人財」が最重要な資源である。私は「不確実性の時代」を生き抜くため、「人財重視」「人財力強化」を企業の経営方針の第一におき、サノヤス丸の舵取り(経営)を行っている次第である。(了)

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