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オーシャンニューズレター

第357号(2015.06.20発行)

第357号(2015.06.20 発行)

わが国内航船舶の国際的な中古船売買の展望

[KEYWORDS]代替建造/船舶共有建造/JRTT
流通科学大学商学部教授◆森 隆行

日本の内航中古船は、海外で高い評価を受けており、東南アジアを中心にその需要は大きい。内航船舶の海外売船は、日本の内航船主にとって代替建造の促進による船隊整備と、売船先国にとっての船隊整備を後押しするという両国にとって大きな意味を持つ。
しかし、今後は、単に船舶の売却にとどまらず修繕や船舶管理などについても日本の内航船主が継続的に関与することが売却先国の船隊整備にも必要である。


はじめに

日本の内航海運は、河川舟運を除けば世界一の規模であり、使用船舶量も多い。内航船舶の建造を手掛ける日本の中小造船所の建造能力は世界的に高い評価を得ており、日本は、小型船を中心に中古船の主要供給国となっている。
わが国内航船舶の船主は、1隻しか所有しない中小事業者が多く、船舶は最大の財産として大事に使い、メンテナンスも充分に行っていることもあり、日本の中古船の評価は高く、東南アジアでは、インドネシアやフィリピン等島嶼国を中心に需要は大きい。ここでは、内航船舶の中古船売買について、その現状を紹介し、需要者側と供給者側の両面から中古船売買の意味と役割を考えてみる。さらに、中古船売買に関する課題とその今後についても言及する。

内航船舶の海外売船の意味と役割

■フィリピンのバンカボート(写真提供:JRTT中川)

日本の内航船舶は、5,249隻、360万総トンであり、そのうち一般貨物船が3,445隻(55%)、タンカーが971隻(18%)である(2014年3月現在)。その70%以上が船齢14年以上であり、老朽化が進んでいる。バブル期に建造された船舶が次々と船齢20年を迎えている。昨年船齢20年を迎えた船舶は192隻あった。船齢20年を超えると定期検査費用や修繕費がかさみコストパーフォーマンスが悪くなる。そこで、内航船主は、代替建造、つまり、所有船を海外売船して、その資金をもとに新たに船舶を建造し、古い船と代替する。その意味で内航船舶の海外売船は船主経済を大きく支える仕組みともいえる。
一方、資金面から新造船には手が届かない海外の需要者には、よく整備されており良質な日本の中古船は人気がある。多くの島から成り立つインドネシアやフィリピンにとって内航海運は生活インフラとして欠かせないものである。しかしながら、その整備は明らかに不十分である。例えば、フィリピンは7,000以上の島があり、内航航路は、14の基幹航路(4社、17隻の大型船)、102の主要航路(34社、183隻の小型貨物フェリー)、および1,600の地方航路がある。1,600の地方航路に投入されているのはモーターボートやバンカボート(アウトリガーと呼ばれる船舶の両舷に伸ばした腕のようなものをつけた木製小型船)である。つまり、日本の良質な中古船の海外売船は、売船先の船隊整備を支援する役割を担っている。

内航船舶の海外売船の現状

■図1:内航船舶の海外売船実績(2008~2013年)

■図2:船種別海外売船隻数(2008~2013年累計)

■図3:2013年相手国別海外売船隻数
(出典:日本内航海運組合総連合会)

2013年の内航船舶の海外売船実績は162隻であった。2008年から2013年の6年間の累計では909隻であり、船種別では一般貨物船が439隻(48%)、次いでタンカーの279隻(31%)である。2つの船種で79%を占める。2013年の国別売船先は、インドネシア56隻(35%)、フィリピン24隻(15%)が2大売船先である。韓国、シンガポール、アラブ首長国連邦と続く。
一般に船舶の海外売船は、シップブローカーと呼ばれる船舶売買の仲介業者を通じて行われる。また、日本内航海運総連合会(以下、内航総連)も独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構/Japan Railway Construction, Transport and Technology Agency(以下、JRTT)と協力して海外船主からのメールによる買船希望情報を内航船社にネットを通じて情報提供するなど、海外の船主と内航船主の橋渡し役を行っている。近年、内航総連とJRTTは、共同でフィリピンやインドネシアにおいて政府関係者、船主、組合関係者などを招いてワークショップを開催するなど、中古船売買に積極的に取り組んでいる。内航船舶の建造および売船に大きな役割をはたしているJRTTは、1959(昭和34)年、国内旅客船公団として発足、その後、幾多の変遷の後、運輸施設整備事業団となり、2003(平成15)年に日本鉄道建設公団と統合した。
内航船主は、その大多数が自己資本に乏しい中小零細事業者であり、船舶の建造にあたって民間の金融機関からの資金調達が難しいケースが多い。JRTTは、低金利、長期の船舶建造資金の支援などを行っている。具体的には、船舶共有建造、つまり、船主とJRTTが共同で船舶を建造・保有するという仕組みである。同時に技術面の支援も行う。建造された船舶は船主が使用・管理し、JRTTには使用料を支払う形で、JRTTが分担した建造費用を弁済する。こうして建造された建造船は減価償却後、残存簿価でJRTTの持分を船主が買い取ることで船主の100%所有船になる。船主にとっては、担保が必要でない。低金利で長期(7~15年)の返済が可能であり、技術支援や税金の優遇などメリットは多い。この共有制度を利用して建造された内航船舶は、1959(昭和39)年開始され、以来半世紀の間に約4,000隻(旅客船1,005隻、貨物船2,967隻)にのぼる。また、最近の内航船舶の建造におけるJRTT共有船のシェアは、総トン数ベースで、旅客船で42%、貨物船では49%であり、内航船舶建造におけるJRTTの果たす役割の大きいことがわかる。

海外売船に新たな展開を

内航海運の効率的な船隊整備のためには、早急に老朽船を新造船に代替しなければならない。しかしながら、多くの場合、法定償却(11年、13年)内に融資の返済を終えることが出来ず、金融機関と協議の上、15~20年に返済を延長してもらっているのが現状である。そのため、中古船として売船される多くが船齢20年を超えている。2013年に海外売船された内航船舶の平均船齢は21.27年であった。運賃水準の低いことが、融資返済が法定償却年数内にできない要因の一つに挙げられる。運賃水準改善が代替建造促進のために必要であり、荷主の理解を得るための業界あげての努力が求められる。
優良な中古船の海外売船は、売却先国の船隊整備を支援する意味で重要である。一方で、日本から売却された中古船が海外で事故を起こすケースもある。その背景には、無理な改装や運航管理上の問題が挙げられる。このため、中古船売却にあたっては、単にハードとしての船舶の売却にとどまらず、売却後の修繕、船員管理を含めた船舶管理や運航ノウハウなどソフト面で、日本の内航船主が継続的にかかわってゆくことが重要であろう。技術支援なども考えられるが、継続性の観点からは、ビジネスとして捉え、現地事業者と合弁事業を行う形態などが有効であろう。
内航船舶のソフトを含めた海外売船は、日本の内航海運と同時に売却先の船隊整備を後押しするという意味で、一挙両得である。(了)

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