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第325号( 2014.02.20 発行)
第325号(2014.02.20 発行)

多様化する水族館のしごと

[KEYWORDS]水族館/飼育員/野生生物の保全活動
新江ノ島水族館学芸員◆小谷野有加

今日、水族館の飼育員の仕事は、飼育業務やショー運営だけではなく、新展示の企画や研究、野生生物や環境の保全活動、教育普及活動など、多岐の分野にわたっている。また、水族館の社会貢献活動に期待が寄せられている。これらをやり遂げていくには、飼育員一人ひとりが得意分野で力を発揮し、広い視野をもつことが必要である。

飼育員の仕事の多様化

■開館以来、初めて生まれたアオウミガメの仔

かつて、女性飼育員が水族館で定年まで勤め上げることは、なかなか厳しいものだったと聞きます。結婚あるいは出産を機に退職する方が多かったようです。しかし今日では、それも変化しています。その背景には、日本の社会全体に育児休暇制度が浸透し、子育てをしながら働くことへの理解が徐々に深まってきたこと、そして私の仕事である飼育員に限っていえば、仕事内容が多様化し、性別にとらわれることなく、個人が得意な分野で力を発揮できるようになってきたことが挙げられます。
飼育員の仕事は、餌が入った10キロのバケツを両手で運び、数百キロある動物と対峙し、潜水作業を行うなど、女性にとっては体力的に厳しいものです。男性と比較すると体力面では敵わないことは確かです。しかし、女性が得意とする細やかな気遣いが必要な仕事、例えば、生物の日々の観察を含めた健康管理や、繁殖、幼生の育成などが年々重要視されています。もちろん、希少な野生動物の種の保全が大きな目的の一つです。
当館でもバンドウイルカやウミガメ、クラゲなどの繁殖に力を入れています。私を含め、当館のウミガメ担当者は、4人中3人が女性ですが、2013年の9月2日には、1954年の開館以来、そして関東で初めてアオウミガメの飼育下繁殖に成功しました。じっくりと一個体一個体と向き合い、健康を管理し、餌やビタミン剤などを工夫してきたことが好結果に結びついたのだと思います。

新展示の企画からアカウミガメ産卵巣の保全活動まで

■クラゲの研究コーナー「クラゲサイエンス」

新展示の企画やイベントのプログラムを作成することも飼育員の仕事です。ここで必要とされるのは、体力よりもアイデアや計画をまとめ、他部署や業者とコミュニケーションをとり、計画を実行する力です。当館は、2013年7月に新しい展示をオープンさせました。クラゲファンタジーホールの球型水槽「クラゲプラネット(海月の惑星)」とクラゲの研究コーナー「クラゲサイエンス」です。この新展示を完成させるには、これまで業務に必要だったクラゲやその飼育方法に関する知識とは異なる能力も必要でした。アイデア力やプレゼンテーション能力、チームをまとめる調整力、そして計画を強力に推進するリーダーシップなどです。
もうひとつ重要な仕事として、野生動物や環境の保全活動があります。新江ノ島水族館では、前身の江の島水族館の時代から60年近く、地域に密着した活動を続けてきました。近年では藤沢メダカの保護育成や江の島の環境調査などがありますが、私が大きく関与しているのは、アカウミガメの産卵巣調査および保全活動です。相模湾でウミガメが産卵するということは、あまり知られていませんが、当館には、年間2~10 回ほど産卵情報が寄せられます。そこで、私たちは2007年より本格的に倉持卓司氏(葉山しおさい博物館)、矢ケ崎朋樹氏(IGES- 国際生態学センター)らとともに、活動を始めました。まず、生態学的な調査として、産卵があった砂浜について生物相の調査などを行い、また地形や砂中温度などを計測し、孵化までの日数を調べます。基本的には、産卵巣にはできるだけ手を触れず、仔ガメが海に旅立っていくのを見守ります。産卵した場所の冠水が予想されたり、海の家が建つ場合などには、地域の博物館や住民の方と共同して移植を行います。このように、身近な環境や生物について調査し、保全活動を行うことは、水族館の飼育員として大切な仕事だと考えています。

水族館へのさらなる期待に応えるために

■横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校での講話の様子(アオウミガメの生態について)

水族館は、レクリエーションの場だけにとどまらず、教育や研究、野生動物や環境の保全、地域社会と連動したECO活動など、幅広い活動を行っています。一例ですが、当館では高校や専門学校、大学などで飼育員や獣医が講師となり、無脊椎動物から海棲哺乳類、海洋環境についての講話を行っています。当館では、年間20件ほど学校に出張して授業を行っています。私は、高等学校でウミガメの保護活動について講話を行ったり、中学校で水族館の仕事について話をしています。相模湾でウミガメが産卵することはほとんど知られておらず、高等学校の約200名の生徒中、2名ほどしか知りませんでした。
また、水族館の仕事について講話をするときには、ショーに代表されるような水族館の華やかな部分だけではなく、時には生き物の死を見届けなければならない仕事であること、生き物を健康に飼育していくために、毎日勉強していかなければならないことなど、飼育員の仕事の中でも地道な部分を伝えるようにしています。最近では、ウミガメが産卵に来る日本の砂浜の現状など、生物だけでなく、生物を取り巻く環境を保全していく大切さについても話をするようにしています。水族館の飼育員を将来めざす専門学校生や大学生の飼育実習や学芸員実習を受け入れ、指導も行っています。
前述のとおり研究や調査活動を行い、地域社会への貢献も常に意識しています。国内外の水族館や動物園、研究機関などとのネットワーク作りや連動も大切です。当館では、海外の水族館と生物の交換を行って、日本では見られない生物を紹介したり、海外の研究機関で、クラゲの飼育技術に関する講義も行っています。このように日本だけではなく、海外にも活動の場は広がっています。
私が所属する展示飼育部の飼育員や獣医は、学会やシンポジウムでも、年に10件以上研究発表を行っています。また、研究者と積極的に共同研究も行い、当館の施設や生物を使った研究を推進しています。長期間水族館で働く一人の女性飼育員として、できること、やりたいことはまだまだたくさんあり、その思いは尽きることがありません。相模湾に隣接する水族館として、一つでも多くの相模湾に関する情報を発信・展示し、社会に貢献したいと考えています。(了)

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