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オーシャンニューズレター

第309号(2013.06.20発行)

第309号(2013.06.20 発行)

海技者志望者の拡大に向けて

[KEYWORDS]日本人船員/海技教育/人材確保
一般社団法人日本船主協会副会長◆五十嵐 誠

外航海運の現場である船や物流拠点では、今やその主な担い手は外国人船員になっているが、一方で、コアとなる日本人船員の使命は、益々クローズアップされて来ており、優秀な人材の確保が引き続き重要課題となっている。
また、内航海運業界では船員の若返りが喫緊の課題となっており、同様に優秀な人材の育成・拡大が求められている。

日本人海技者の意義

外航に従事している日本商船隊(2,000総トン以上の日本海運関係船)は、2011年には、約2,800隻もの規模となっており、60,000人を超える外航船員によって運航されている。その内訳は日本人が約2,400人、フィリピン人を中心とする外国人船員が約58,000人である。日本人外航船員数は、1974年の約57,000人をピークに減少し続け、今や日本商船隊は、外国人船員によって支えられているとも言える。
日本の外航海運会社が、その船隊を拡大しながら、海上輸送という国際競争の場で生き残っていくためには、どうしても日本人に比べて賃金が安価な外国人船員に頼らざるを得ず、結果として、上述のとおり、その数は大幅に増加することとなった。
しかしながら、一方で、日本の海運会社にとって、高度な専門知識と技術を備える日本人船員は、単なる船舶運航の担い手としてのみではなく、船員として海上実務で得た経験・知識・技能を活かし、陸上において船員・船舶・運航の管理等を行い、船舶の安全かつ効率的な運航を実現する「海上技術者(海技者)」として重要な存在であり続けている。
2009年に約2,300人まで減少した日本人船員は、近年徐々に増加してきているが、より優秀な人材の確保は継続的な課題であり、そのためには船員・海技者の職業としての魅力を広く一般に理解してもらい、より多くの若者にその道を志してもらうことが重要である。また、内航海運業界においては、2011年度の内航船員約20,000人のうち、その約60%が50歳以上となっており、若返りが喫緊の課題であることから、やはり船員を志望する優秀な人材の育成・拡大は重要な課題となっている。

人材確保タスクフォースの設置

2007(平成19)年7月20日に施行された、海洋政策の基本理念や基本的施策等に関する『海洋基本法』では、その基本理念として第5条(海洋産業の健全な発展)において「海洋の開発、利用、保全等を担う産業(以下「海洋産業」という。)については、我が国の経済社会の健全な発展及び国民生活の安定向上の基盤であることに鑑み、海洋の開発、利用、保全等について総合的かつ一体的に行われるものでなければならない」旨が明記された。第20条(海上輸送の確保)では「国は、効率的かつ安定的な海上輸送の確保を図るため、日本船舶の確保、船員の育成及び確保、国際海上輸送網の拠点となる港湾の整備その他の必要な措置を講ずるものとする」とある。また、第24条(海洋産業の振興及び国際競争力の強化)で「国は、海洋産業の振興及びその国際競争力の強化を図るため、海洋産業に関し、先端的な研究開発の推進、技術の高度化、人材の育成及び確保、競争条件の整備等による経営基盤の強化及び新たな事業の開拓その他必要な措置を講ずるものとする」と規定している。
一方、2007年12月に取りまとめられた国土交通大臣の諮問機関である交通政策審議会海事分科会国際海上輸送部会およびヒューマンインフラ部会報告書においては、日本人船員(海技者)の確保および育成の必要性が示され、海運事業者の採用・育成の努力を求めるとともに、国および関係団体ならびに船員教育機関等による支援の必要性が明示されている。
これを受け、国土交通省海事局は、広報活動を主目的に関係者による「海事産業の次世代人材育成推進会議」を立ち上げて各種活動を展開しており、日本船主協会においても2008年7月に人材確保タスクフォース(TF)を設置し、優秀な海技者確保のための様々な広報活動を行っているところである。

人材確保タスクフォースによる活動

■2013年2月の神戸大での講演会

■2012年7月に開催した合同進学ガイダンス(広島)

人材確保TFは、船員の養成機関である国立大学・高等専門学校(高専)、独立行政法人海技教育機構の海技大学校、海上技術短期大学、海上技術学校と連携して様々な広報活動を展開している。
(1)大学関係 ― 東京海洋大学海洋工学部と神戸大学海事科学部は、旧商船大学時代から日本人海技者の養成機関として長い歴史を持つものの、職業多様化の進展により、近年では両学部で学ぶ学生が必ずしも将来的に海技者を志しているとは限らない。このため人材確保TFでは、2010年から両大学に船長または機関長や、学生と年齢の近い若手海技者を派遣し、1年次には海運業界と海技者という職業について知ってもらうための講演会を、2年次には海技者を将来の選択肢としてより具体的に意識してもらえるような構成の講演会を開催している。その他、学生に商船の現場を知ってもらうための本船見学会等を開催している。
(2)高専関係 ― 商船学科を持つ高専5校(富山高専、鳥羽・広島・大島・弓削商船高専)を広く知ってもらうとともに、各校志望者の増加を目的に、中学生とその保護者等を対象とした「5校合同進学ガイダンス」を2008年から全国各地で開催している。合同進学ガイダンスは、高専の教員から学校教育や学生生活等について中学生やその保護者に説明してもらうとともに、各校出身の若手海技者から学生時代や海技者という職業の魅力について語ってもらう構成で、2012年までに延べ1,100人以上が参加しており、商船系高専の認知度上昇と志望者増加に寄与している。なお、2013年度の合同進学ガイダンスは、6月29日(土)に広島で、翌30日(日)東京で、7月15日(海の日)に神戸で、8月10日(土)に仙台でそれぞれ開催予定である。また、外航船員の資格が取得できる5高専の学生であっても、近年は内航海運業界を志望する者も増加傾向にあることから、内航海運会社と高専がお互いの状況について理解を深めるための情報交換会を2012年に東京で実施した。
(3)海技教育機構関係 ― 海技教育機構の8校(海技大学校、宮古・清水・波方海上技術短期大学、小樽・館山・唐津・口之津海上技術学校)は、これまで内航海運業界に優秀な人材を輩出しているが、内航海運会社と各校の相互理解を一層深めるべく、2010年以降、両者の意見交換会を東京と神戸で定期的に開催している。また、各校の教員に内航海運の実務に関する理解を深めてもらい、学生指導に生かしてもらうべく、内航海運会社の実務担当者を講師とした勉強会も2011年から定期的に実施している。
(4)その他 ― 都内の小学校がキャリア教育の一環として、様々な職業人を招いて開催している「校内ハローワーク」に、2011年から船長を講師として派遣し、海技者という仕事をPRしている。本年、内閣総理大臣を本部長とする総合海洋政策本部によって取りまとめられ、閣議決定された新たな『海洋基本計画』においても、海洋国家としての人材育成への取り組みが謳われており、当協会では人材確保TFを中心に、今後も優秀な日本人海技者確保のための活動を継続していくものである。(了)

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