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オーシャンニューズレター

第276号(2012.02.05発行)

第276号(2012.02.05 発行)

いまこそ準天頂衛星を使った海洋開発を~動き始めた日本版GPS衛星~

[KEYWORDS] 準天頂衛星/位置情報/海洋と宇宙の連携
公益財団法人東京財団研究員、一般社団法人測位航法学会理事◆坂本規博

日本版GPS衛星である準天頂衛星システムが動き始めた。
平成23年9月30日、準天頂衛星システム開発の閣議決定がなされ、2010年代後半に準天頂軌道の4機を整備し、将来的に持続測位が可能となる7機体制を目指すことが決定した。

準天頂衛星システム

■図1 準天頂衛星の軌道(4機の場合)
(衛星測位利用推進センター資料にもとづく)

■図2 準天頂衛星の利用イメージ
(出所:宇宙開発戦略本部宇宙基本計画より)

(1)概要
わが国の実用の人工衛星には、通信衛星(「スーパーバード」)、画像衛星(「だいち」)、気象衛星(「ひまわり」)等多くの種類があるが、測位衛星に関しては国産の実用衛星がなく、現在は米国のGPS衛星を利用している。この準天頂衛星の初号機「みちびき」は2010年9月11日にH-IIAロケット18号機によって打ち上げられ、現在は日本の各分野で高精度技術実証実験を行っている。なお、測位衛星は、PNT(Position/Navigation/Timing)と呼ばれる「位置・航行・時刻」の三機能を有し、船の位置情報、農業用トラクターの自動運転、宅配便・バス・タクシーの配車管理、車両盗難検知・徘徊老人検知・GPS携帯地図情報、銀行のATMの時刻制御など私たちの身近で使われている。
(2)システム構成
準天頂衛星システム(以下、QZSSと呼ぶ)は7機(準天頂軌道に4機、静止軌道に3機)で構成され、第一段階は4機体制となり、常時われわれ国民の頭上に1機の衛星が滞空する(図参照)ため、測位が可能な場所や効率性が大幅に向上し、測量、交通・運転ナビゲーション、救難活動が可能となる。第二段階の7機体制となれば、QZSSのカバーエリアが東アジアから東南アジア・中国・インドを含むアジアの広範囲に及び、日本版GPS衛星として自立運用が可能となり、GPS信号が東アジアの紛争等で停波した場合でも民間活動には支障が起きることはない。
(3)特徴と課題
GPSと異なるQZSSの特徴は3つあり、国民やユーザーの頭上に必ず1機衛星が滞空するように設計されいつでもどこでも使える(ビルや山陰に遮蔽されない)こと、ユーザーが国土地理院の電子基準点とリンクした補正サービスを受ければサブメートル級とセンチメートル級の2種類の高精度位置情報が得られること、QZSS独自の災害時非常通信機能を有していることである。
課題としては、わが国に衛星測位の研究組織がないことで、QZSSの国内外の利用普及のためには早急に「衛星測位技術研究センター(仮称)」を設置して、利用技術の開発、人材育成、欧米や豪州をはじめとしたアジア国際連携との機能を有する技術拠点を構築する必要がある。

日本国内のQZSS利用の動き

(1)陸上分野
QZSSの高精度測位利用については、(財)衛星測位利用推進センターを中心に利用実証が進められている。サブメートル級の測位補強利用として、円滑な運航管理等を目的として自動車、鉄道などの移動体から歩行者まで幅広く利用実験が行われ、センチメートル級の測位補強利用としては、測量、精密農業における建機・農機の制御・作業管理やライフラインの敷設管理等での利用実験が進められている。多くの分野でQZSSが実用化されれば是非使いたいという声が挙がっており、2011年10月に東京海洋大学で行われた測位航法学会主催の『GPS/GNSSシンポジウム2011』では、一例を挙げると「鉄道分野におけるQZSSへの期待」として、沿線地上設備の削減、線路上の移動体(列車、保守用車、作業員等)の位置検出、列車保安制御、保守作業防護の一体化に有効でありICTによる鉄道システムの変革になるとの発表があった。
(2)海洋分野
海洋分野における衛星測位を含む宇宙の利用について検討が進んでいる。まず、「海洋基本法フォローアップ研究会」にて新たな海洋立国の実現に向けた「海洋と宇宙の連携推進」が提言され、次に、(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)主催の海洋・宇宙連携委員会で4分野(環境・水産/海運・海洋セーフティ/海洋エネルギー・資源/海洋セキュリティ)における連携が議論された。また、2011年3月2日にはJAXA主催の『宇宙利用シンポジウム2011~人工衛星利用が拓く!日本の未来!地球の未来!~』が開催され、JAXAより「準天頂衛星利用の現状と将来」の紹介と、(独)海洋研究開発機構から「海洋分野における人工衛星利用の意義と将来への期待」というテーマで、JAXAとの共同実証実験の事例を基に海洋と宇宙の連携に関する大きな可能性が述べられた。このように、わが国でも、海洋と宇宙の連携の機運は徐々に拡がりつつある。

海洋分野の利用の可能性

「みちびき」による衛星データが一般利用可能になったことを受けて、わが国の多くの分野でQZSSの位置データが活用できる可能性や技術開発があることがわかった。海洋の分野においても、QZSSによる位置データを、海洋観測衛星、海洋現場での観測やそれを活用する技術開発と組み合わせることで、船舶等の位置情報による海難救助、違法操業・不審船の監視等の海上安全保障への活用、海上交通安全確保、地球環境監視と海洋資源探査のための海洋情報への加工など、幅広い分野で利活用できる可能性がある。現在のGPS利用では得られない準天頂衛星のみが持つサブメートル級、センチメートル級の高精度測位利用を推進することにより日本の海洋開発・海洋利用に資することが期待される。(了)

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