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第253号(2011.02.20発行)

第253号(2011.02.20 発行)

南西諸島方面の防衛態勢に関する一考察 ~常設統合機動展開部隊の創設を中心として~

[KEYWORDS] 動的防衛力/自律的列島線防衛態勢/沖縄海兵隊の県外、国外移転
岡崎研究所理事◆金田秀昭

昨年末、防衛計画の大綱が改訂され、南西諸島方面の防衛態勢を強化する方針が示されたが、具体的な運用態勢を如何にするかの議論はこれからだ。
南西諸島方面の防衛の特質は列島線防衛であり、このためには、3自衛隊を統合した常設の機動展開部隊を創設、同方面に常時機動展開させ、大綱が求める自律的な「動的防衛力」を構築していかねばならない。

防衛計画の大綱

昨年12月17日、民主党政権初の「防衛計画の大綱」が策定された。本大綱の目玉の一つは、「中国の国防費増加や日本周辺海域での活動活発化は、地域や国際社会の懸念となっており、わが国の南西諸島方面の防衛態勢を強化する」必要性を求めたことである。
態勢強化の方針については、「島嶼部に必要最小限の部隊を配置」し、「活動拠点、機動力、輸送能力及び実効的な対処能力を整備」し、「攻撃への対応や周辺海空域の安全確保能力を強化」するとされているが、具体的内容は明示されていない。新大綱を敷衍した次期「中期防衛力整備計画」でも、海・空防衛力の強化や南西諸島への陸自沿岸監視部隊の配備が示されているが、全体としてどういう運用態勢を取るのか、細部は明確ではない。
今回の防衛計画の大綱のもう一つの目玉は、以前の防衛力整備の考え方である「基盤的防衛力」構想から脱して、「動的防衛力」を構築するというものである。南西諸島方面の防衛の特質は、中国という軍事大国に接した「列島線防衛」という点にある。その目的に適した「動的防衛力」をいかに構築していくのか、今後、防衛省・自衛隊内で多角的、具体的な検討が進められることになると思うが、ここでは、常設の統合機動展開部隊の創設を中心とした態勢の構築について、一つの案を提示していきたいと思う。

南西諸島防衛態勢


■陸自部隊や輸送ヘリなどを搭載した海自輸送艦

南西諸島方面の防衛態勢を考察する際には、次のような点を考慮していかねばならない。南西諸島方面の防衛の特質は何か? 周辺国の軍事行動に対する効果的な抑止、対処の態勢は何か? 3自衛隊の共同態勢はいかにすべきか? 日米共同におけるRMC(役割・任務・能力)はいかにあるべきか? 日本の防衛体制全般にいかなる影響を及ぼすか? 米国の抑止体制にいかなる影響を及ぼすか? そして最後に、在沖米軍再編、とりわけ在沖米海兵隊の基地問題の解決に寄与できないか? といった点である。
結論的に言えば、「自律的な南西諸島防衛態勢」の整備による「動的抑止体制」の確立を追求していくことが適当であると考える。すなわち、南西諸島周辺に、即応能力を持つ3自衛隊を統合した常設の機動展開部隊を常時行動させ、可視的な抑止効果を発揮するとともに、不幸にして同方面で事態が生起した場合には、これに即応できる態勢を構築することである。ここに言う機動展開部隊とは、米海兵隊のように水陸両用戦機能や空地一体機能を具備する部隊である。
具体的には、まず、沖縄に「(常設)統合機動展開部隊(JTG)司令部」を設置する。JTGは、一定期間周期配属(2~3カ月程度のローテーション)される陸上、海上、航空部隊から構成される。
陸上部隊は、まず、陸上自衛隊西部方面隊直属の島嶼部機動展開専任部隊となっている西部方面隊普通科連隊を機動展開部隊の教導部隊として沖縄に移駐させる。これに加え、既設されている中国地方管轄の第13旅団、四国地方管轄の第14旅団,南西諸島方面管轄の第15旅団の計3個旅団を、機動展開部隊化する一方、第16機動展開旅団を九州地区に新編(既設されている北九州地方管轄の第4師団と南九州地方管轄の第8師団の中から編成)する。これら4個機動展開旅団の中から、高い練度を持つ1個機動展開連隊程度の部隊をJTGに周期配属する。JTGに配属する直前に、当該部隊は、沖縄に移動し、教導部隊の指導を得て、急速完熟練成訓練を実施する。
海上部隊は、呉基地の輸送艦部隊を強化し、常続的に1隻以上の輸送艦をJTGに周期配属する態勢を構築する。JTGに配属された輸送艦は、1個機動展開連隊程度の陸上部隊を完全装備で常時搭載し、JTG配属の航空部隊等と連携し、適宜、列島線防衛訓練を実施しつつ、南西諸島方面を即応状態で随時機動展開する。
また、自衛艦隊などの兵力により、JTGの行動海域周辺における潜水艦、哨戒機などによる常続的な対水上、水中監視体制を維持する一方、1個護衛隊程度の水上部隊、潜水艦、哨戒機等を、JTGの護衛任務に割り当てる。
航空部隊は、九州・南西諸島方面に、JTGの陸上部隊に対する近接航空支援や艦艇攻撃を専任とする航空部隊を新編し、常続的に1個飛行隊程度の航空部隊をJTGに周期配備する態勢を構築する。JTGに配属された航空部隊は、JTG配属の海上部隊等と連携し、適宜、列島線防衛訓練を実施しつつ、南西諸島方面で即応状態を維持する。また、航空総隊などの兵力により、JTGの行動海域周辺におけるAWACS※1、UAV※2、移動式レーダーなどによる常続的な対空、水上監視体制を維持する一方、1個飛行隊程度の戦闘機部隊等を、JTGの護衛任務(CAP※3等)に割り当てる。

日米同盟の強化による共同防衛体制

上記のような「自律的な南西諸島防衛態勢」を構築するためには、一定の経費と期間を必要とするが、既存の部隊や装備を、幾分機能転換することで対応することが可能である。すなわち、大幅な増員や大規模な装備の新規調達も必要ない。
この態勢が完成すれば、日米同盟の強化による共同防衛体制の立て直しが可能となる。すなわち、南西諸島方面の自衛隊による自律的防衛態勢の強化により、日米共同における「より双務的な防衛体制」の追求と、日本防衛および地域安定化のための米軍抑止態勢の維持・向上が可能となる。
また、将来的な在沖米軍基地の県外、国外移駐の可能性を追求することも可能となる。すなわち、第13、14および16機動展開旅団の基地周辺の関連施設(駐屯地、ヘリ基地、特殊戦訓練場、港湾、揚陸演習海岸等)を逐次充実し、各旅団の訓練効率の向上を図る一方、在沖米海兵隊と共同使用を充実していくことが可能となる。また、半島情勢、海峡情勢、尖閣問題など日本周辺や地域の安全保障情勢に一定の状況好転の見通しが得られた場合には、在沖米海兵隊や地元の了解を得て、これら基地に在沖米海兵隊を移転(並存、またはスワップ)することも可能となる。さらに、将来、半島情勢、海峡情勢、尖閣問題に抜本的な状況好転の見通しが得られた場合、あるいは米海兵隊の迅速な機動展開(航空・海上)に画期的な改善がなされた場合、在沖米海兵隊や地元の了解を得て、同隊を西部日本以外の県外(富士山麓、北海道等)または国外(グアム、比等)に移転することも可能となろう。(了)

※1 AWACS=Airborn Warning and Control System早期警戒管制機
※2 UAV=Unmanned Air Vehicle無人航空機
※3 CAP=Combat Air Patrol戦闘空中哨戒、護衛任務

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