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オーシャンニューズレター

第203号(2009.01.20発行)

第203号(2009.01.20 発行)

日本でも広がり始めた海のエコラベル

[KEYWORDS] 海洋管理協議会(MSC)/持続可能な漁業/海のエコラベル
海洋管理協議会(MSC)日本事務所 プログラム・ディレクター◆石井幸造

持続可能な漁業で獲られた水産物であることを示すMSCロゴマーク「海のエコラベル」のついた製品が世界で広がっている。欧米での普及が先行していたが、日本でも大手小売企業が取り扱いを開始して以降、急速に広がりつつある。
水産物消費大国の日本での普及は、世界の水産資源の持続的な利用に大きく貢献することから、ラベルに対する消費者の認識向上を通じた、さらなる普及が求められる。

海のエコラベルとは

MSCロゴマーク(海のエコラベル)
MSCロゴマーク(海のエコラベル)

人口ならびに一人当たりの水産物消費量の増加に伴い、世界の水産物需要は増え続けている。需要の増加に伴い漁業生産量も増えているが、国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の水産資源の約25%はすでに枯渇あるいは回復が困難な状況にあり、約50%は資源を維持できるとされる満限まで漁獲されている。
このように危機的な状況にある水産資源の回復に向け、持続可能な漁業・水産物の普及を目指し設立されたのが海洋管理協議会(MSC: Marine Stewardship Council)であり、普及のためのツールが、認証制度とそれと対になるエコラベリングである。すなわち、持続可能で環境に配慮した漁業を認証し、認証された漁業で獲られた水産物にMSCのロゴマーク(通称「海のエコラベル」)を付け、ラベルの付いた製品を消費者に選択してもらうことで、持続可能な漁業と水産物を普及させる取り組みである。本来の環境面でのメリットのみならず、ラベル付き製品の需要増に伴う価格プレミアムの可能性、ブランド価値の増大、トレーサビリティの向上、企業の社会的責任(CSR)に係る認識向上など、商業的・経済的メリットも有することから、漁業者、水産物加工・流通企業、小売企業、そして消費者が協同できる取り組みである。
MSCの認証制度には、持続可能で環境に配慮した漁業を認証するための漁業認証と、認証された漁業で獲られた水産物が流通過程で非認証の水産物と混じるリスクを最小限に抑えるためのCoC(Chain of Custody)認証の2つがあり、認証のための審査は、中立的な立場にある第三者機関によって行われる。
漁業認証については、漁業の規模、魚種・漁法、国・海域等を問わず、すべての天然魚対象漁業は審査の申請が可能であり、資源の持続可能性、生態系への影響、管理システムに関するMSCの原則・基準に合致していると判断されれば認証が与えられる。CoC認証の対象は、原則として流通・加工段階で当該認証水産物の所有権を有する事業者であり、CoC認証によって、確実にMSC認証基準に合致した漁業を供給源とする水産物であると判断される場合のみ、海のエコラベルをつけての販売が可能となる。

日本でも広がる海のエコラベル

MSC漁業認証が世界で最初に発行されたのは2000年3月で、同年には世界初のMSCロゴマーク付き製品の販売がイギリスで開始された。その後、漁業認証を取得する漁業、海のエコラベル付き製品数ともに増え続けており、特に2006年以降、製品数は急増している。
2008年10月末現在、漁業認証を取得した漁業数は35、認証審査中の漁業数は79となっている。認証取得漁業の規模は様々であり、アラスカのスケソウダラ漁のように年間漁獲量が100万トンを超える漁業が認証されている一方、年間漁獲量が10トンに満たない小規模漁業も認証を受けている。認証取得漁業は欧米の漁業が多いが、地域的には拡大傾向にあり、日本でも京都府機船底曳網漁業連合会のズワイガニとアカガレイ漁が2008年9月に認証を取得したのに続き、10月には遠洋カツオ一本釣り漁業の一部が認証審査に入った。
MSCの推計では、認証取得済みならびに審査中漁業の年間漁獲量の合算値は約500万トンに達しており、世界の天然サケ漁獲量の42%、主要白身魚漁獲量の40%、ロブスター漁獲量の18%はMSC認証取得済みあるいは審査中の漁業により漁獲されている。
海のエコラベル付き製品数は、2008年9月末現在、1,844品目あり、世界40カ国で販売されている。国別では、イギリス、ドイツ、アメリカが多く、オランダ、日本、スウェーデンがこれらに続く。2000年3月に最初の製品が販売されてから500品目に到達するまでには約7年を要したものの、500から1,000品目へはわずか9カ月で増加している(図参照)。製品数急増の要因の一つとして、将来的に天然魚はすべてMSC認証漁業から調達していく旨の公約を欧米の大手小売企業が相次いで発表したことが挙げられる。
日本では、2006年7月に初めてMSCロゴマーク付き製品が販売され、同年11月にはイオン株式会社が11品のマーク付き製品の販売を始めた。株式会社西友がこれに続き、2007年10月には日本生活協同組合連合会が16品目の販売を開始した。最近では、地方の食品スーパーマーケットチェーンや百貨店でも販売を開始・検討するところが増えている。2008年4月にはマークの付いた製品数が100品に到達しており、日本でも海のエコラベル付き製品は着実に浸透しつつある。さらに、2008年10月には、上記の京都の漁業で獲られたアカガレイに、国内で漁獲された水産物として初めてエコラベルが付けられ、販売が開始されている。

MSCロゴマーク(海のエコラベル)

重要な日本の消費者の選択

このように、日本でも普及は進みつつあるものの、海のエコラベルに対する消費者の認知度は高いとは言い難い。一般の消費者が水産物を購入する際に重視する点として、質(鮮度)、価格、安全性、産地、等が挙げられるが、これら項目は欧米でも同じであろう。しかし、欧米では環境面への配慮を重視する消費者の比率が高く、これがエコラベル製品の普及拡大につながっている。日本は一人当たりの水産物消費量が非常に大きな国であり、日本の消費者がエコラベル付きの製品を選択することは、世界の水産資源の維持・回復、持続可能な漁業の普及に大きく貢献する。よって、ラベルが有する意味について、日本の消費者の理解を高め、ラベル付き製品の選択を促すことが、将来にわたり水産資源を維持していくために非常に重要である。
日本人は多種多様な水産物を食べるものの、日本で販売されているエコラベル付き製品は魚種がまだ少ないのが現状である。しかし、認証審査中の漁業には、サバ、アマエビ、カレイ・ヒラメ等、日本での需要の大きい魚を漁獲する漁業も含まれており、将来的にはこれら魚種でもラベルの付いた製品が販売されるであろう。また、上記のカツオ漁業の他、認証審査に進むことを検討している国内の複数の漁業が認証を取得すれば、ラベルの付いた製品はさらに増加する。こうした日本国内でのラベル付き製品数の増加、マーケットの拡大を見据え、MSCでは、持続可能な漁業・水産物の普及の重要性、そして日本の消費者の選択の重要性について、広く一般の認識をさらに高めるための取り組みを展開していく計画である。(了)

MSC Marine Stewardship Council(海洋管理協議会)日本事務所  持続可能な漁業を推奨する独立した国際的非営利団体。MSC認証とは、FAO(Food and Agriculture Organisation of the United Nations:国連食糧農業機関)の2005年「水産物エコラベルのガイドライン」に則ったもので、健全な手続きと、透明性、説明責任と独立性の原則に基づいた漁業の証明である。
「水産エコラベリングを通じた、資源管理への消費者の参画」田村典江、本誌第145号も参照下さい。

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