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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第411号(2017.09.20 発行)

日本最東端南鳥島への渡島

[KEYWORDS]排他的経済水域/活動拠点整備/国土保全
(国研)海上・港湾・航空技術研究所港湾空港技術研究所沿岸環境研究領域沿岸環境研究グループ長◆桑江朝比呂

排他的経済水域等における天然資源の開発などの主権的権利等を行使するとともに、海洋環境を保全する義務を果たすため、本土から遠隔に位置する南鳥島に、活動拠点としての港湾施設が建設中である。
本事業に関する調査研究のために南鳥島に渡島した際の様子を報告する。

遠隔離島の重要性

国内外における近年の情勢変化により、離島を活動拠点とした海洋開発・利用の重要性は増している。また、遠隔離島の低潮線は排他的経済水域の基線となることから、遠隔離島の国土保全においては、領土のみならず低潮線を保全することが要請される。
沖ノ鳥島や南鳥島など日本の南部に位置する遠隔離島は、珪酸を母材とする本州等の地盤とは異なり、サンゴや有孔虫といった生物(石灰化生物)が生成した炭酸カルシウムを母材とする地盤や堆積物によって形成されている。したがって、国土保全は、石灰化生物による国土地盤形成の速度が、海面上昇と侵食速度を上回るかに依存している。気候変動、水底質変化、土地利用変化といった外部ストレスは、石灰化生物にとって脅威であるとともに、国土保全の観点からも脅威となる。
炭酸カルシウム地盤は、珪酸地盤と比較し、(1)石灰化生物による地盤形成が可能、(2)外部ストレスに対して脆弱、(3)母材の単位堆積当たり重量が軽く、外力により移動しやすい、といった特性がある。しかしながら、炭酸カルシウム地盤の特性を考慮した国土保全に関する調査研究や、対策技術は不足している。
サンゴや有孔虫による地盤・堆積物形成の促進とともに侵食抑制に関する新学術と新技術の基盤を創出することを当研究所におけるミッションと位置づけ、離島の領土、低潮線、ならびに港湾施設の保全という要請に応えることを最終的な目標としている。このような背景のもと、本稿では、調査研究のために日本最東端に位置する南鳥島に渡島した際の様子を報告する。

絶海の孤島とはどういうことか

厚木飛行場から硫黄島経由で南鳥島に降り立った。出発から7時間ほどは経過していたが、「あっけなく上陸できたものだな」と、その時思った。
実は、航空機による南鳥島への渡島の半年前に一度、船による渡島を試みていた。南鳥島は東京から約1,950kmも離れた日本最東端にある。東京都立大島国際海洋高校の実習船「大島丸」で、3日半ノンストップの航海でやっとたどり着くところに目的地はある。
南鳥島には、500トン級の大島丸が着岸できる場所がない。「港」がないのである。したがって、大島丸が南鳥島の沖合数百mまで近づいた後、あらかじめ船に積んでおいたゴムボートを降ろして上陸する必要があった。3日半の船内生活、時に2mを超える「うねり」でほとんど寝て過ごすしかない日もあった。やっと上陸できると甲板の上でわくわくしながら、ゴムボートに乗船した先発隊を見守っていた。ところが10分も経過しないうちに、ゴムボートから「上陸不可能」との悲しい連絡が入った。リーフ周辺の波が高く、流れも複雑かつ速くて、ゴムボートがリーフ内に進入できなかったのだ。
一見すると、沖縄周辺によくあるようなリーフのように思う。しかしながら、南鳥島のリーフ周辺環境は、沖縄とはまったく異なっている。深海から約30度の勾配で急に浅くなる地形のため、リーフでの波の砕け方やリーフ内への波の打ち込み、流れの速さや複雑さが、遠目でみた予想とはまったく違っていた。
大島丸から双眼鏡で島を覗くと、島内の植生や施設がよく観察できた。そんな岸近くまで接近していながら、上陸することは叶わなかった。1年以上前から渡島の準備をし、ようやく目的地が目前にある場所までたどり着いたのに、何一つ調査することができず、また3日半うねりに揺られながら本土に帰ることになった。放心状態…。
手前味噌ではあるが、港湾に関する研究所に勤めていながら、この時ほど「港」がいかに重要なインフラであるかを体感したことはなかった。船を岸に着けることができないと、どれだけ不便なことが起きるのか、よくわかった。
活動拠点整備のため、現在南鳥島では港湾施設が建設中である。この「拠点がない場所に拠点をつくる」というミッションが、いかに困難なものであるのか、少しながら実感できたのは、せめてもの救いであった。このような航海経験があったため、航空機が南鳥島の滑走路に着陸したときには、なんともあっけなく感じたのである。

南鳥島の位置マルチコプターで撮影した南鳥島の外観。右の海岸線に、建設中の港湾施設が見える。

強風の南鳥島での調査

宿泊した国土交通省の南鳥島港湾保全管理所からの景色。

2月中旬の南鳥島は、風が強く肌寒かった。毎日ぱらぱらと雨が降る曇りがちな天気だった。風が強いことは、現地調査を実施するうえで特に厄介だった。三角の形をした南鳥島の各辺において、波高計などの観測機器を設置し、データを収録した後に回収すること、リーフ内のサンゴ礁を観察すること、そしてマルチコプターで空撮すること、いずれの調査項目においても、風が強い(その結果として波が高く流れが速い)と仕事にならないからである。
予測できない風向きを毎朝確認し、南鳥島の三辺のうち、島影になる風下の海岸で調査を進めた。風下の海岸でも、身長ほどの水深帯において、通常の装備で安全な作業が可能な海の状態だったのは、3日に一度程度だった。それほどリーフからの波の打ち込みが激しく、人のアクセスを拒む海岸であった。一般のリーフ内においては波や流れは穏やかであり、その海岸は粒径の小さい砂が堆積しやすく、緩やかな砂浜が広がることが多い。しかし、南鳥島では直径5cmほどのサンゴ礫からなる急勾配の礫浜が続く場所もあり、リーフ内とはいえ、いかに波が高い場所であるかを実感した。
そのようなアクセスの難しい海岸であるため、地形測量や深浅測量も困難を極める。しかしながら、排他的経済水域とりわけ低潮線を保全するためには、測量はもっとも重要な基礎調査である。
マルチコプターでの空撮は、このような条件の厳しい環境でも、容易に測量可能な技術を開発するために実施した。今回の渡島では、強風や雨天の合間をぬってマルチコプターを飛ばし、合計10,000枚以上の空中写真を撮影できた。さまざまな高度や角度からオーバーラップさせて撮影した大量の画像を三次元合成することにより、どの程度精度よく標高や水深が推定できるのか、今後解析する予定である。
島内での生活は、至って快適であった。島には発電所があり、海水淡水化施設があり、食堂では野菜たっぷりのおいしい食事をいただき、清掃の行き届いた宿泊施設を提供いただいた。南鳥島関係者の努力と効率的な仕事ぶりに支えられ、快適な生活が送れることを、身にしみて感じた。また渡島に際し、さまざまな便宜を供与いただいた、各省庁と東京都立大島海洋国際高校の多くの関係者の方々に、深く感謝したい。(了)

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