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第403号(2017.05.20 発行)

気仙沼発「海洋教育こどもサミットin東北」─を考える

[KEYWORDS]海洋教育こどもサミットin東北/被災地の海洋教育/子どもの成長の場
気仙沼市教育委員会学校教育課副参事(指導主事)◆谷山知宏

東日本大震災からの復興途上にある気仙沼市で「海洋教育こどもサミットin東北」が開催された。
気仙沼市教育委員会と岩手県洋野町教育委員会双方の海洋教育推進に向けた思いを形にしたものである。
東北各地で行われている海洋教育の実践を子どもたちが発表し、意見交換や交流を通して相互理解を深めた。
海に学ぶその豊かさを再認識し、海洋教育推進のヒントを得ることができた。

初めての試み

東日本大震災から6年目の初冬、2016年11月25日(金)に「海洋教育こどもサミットin東北」が気仙沼市で開催された。比較的雪の少ない沿岸部とはいえ、寒空の中、300人を超える参加者があり、用意した資料は早々に底をついてしまった。
主催に名を連ねた岩手県洋野町からは8小学校と4中学校が大型バスで、さらに岩手県立種市高校と山形県立加茂水産高校が遠路はるばるやってきてくれた。地元気仙沼市からは、市の海洋教育推進事業実践校である1幼稚園、7小学校、3中学校と、SGHとして地域探究学習を進める気仙沼高校、そして、水産高校が前身である気仙沼向洋高校が参加した。
幼稚園から高校までの校種の多様さによる豊かな発表に加え、東北各地からの参加を得て、奥行きのある実践発表が行われた。海洋教育が東北各地でどのように行われているのか、そして、今後どのように進んでいくのか、その可能性を知る絶好の機会となった。本サミット開催の意義をいくつか拾い上げてみたい。

再認識の機会─学びの場としての海

まず、第一に挙げるべきは、学びの場としての海のよさを再認識できたことである。
気仙沼市では、定置網起こし等の漁業体験や名所旧跡の探訪によって地域のよさを知る地域探検学習:ふるさと学習を積極的に行ってきた。また、ESD(持続可能な開発のための教育)を教育の基盤に据え、環境教育や防災教育、食育などを地域連携によって推進してきた。しかし、東日本大震災の影響は大きく、学習のフィールドや指導体制を失ったところが少なくない。特に、海洋教育においては、津波の被害や影響が深刻で、海で学ぶ活動自体を縮小したり、中断してしまったりしているところが多い。最も大切に扱うべき「海に親しむ活動」がほとんど行われていない状態なのである。地域のよさに学び、地域の子どもとして育っていくための恰好の学びの場である海。子どもたちが、そこに近寄れずにいる。今回のサミットでこのような危機的状況を多くの方々に理解してもらうとともに、「豊かな学びの場としての海」を再認識する機会を得たことに大きな意義があると考える。

学習経験による子どもたちの変容を目指して

二つ目は、子どもたちの学びと交流を重視したことである。
本サミットの主役である子どもたちができる限り主体的に動けるよう、ポスターセッションを発表の中心に置いた。各学校から出た合計23の発表を3回に分け、各ブースで説明と質疑応答を繰り返す発表スタイルである。会場を見渡してみると、唐桑小学校は、漁協青年部との連携で行った牡蠣養殖体験学習の成果を自作の養殖筏の模型などを使って分かりやすく説明していた。洋野町の中野小学校は、個人研究の成果を南部ダイバーの重量感あふれる実物のヘルメットや靴を見せるなど、豊富な資料で説明していた。大人の不安をよそに、小学生も堂々とした発表をしており、このような学習を通して成長している様子が見て取れた。また、相互交流を促すため、参観者が感想や気づいたことを付箋に書いて発表者に渡すことにした。発表ポスターに貼られた付箋には、発表のよさや気づいたことがびっしりと書かれており、持ち帰った学校で他の子どもたちや教師にも共有されたはずである。
さらに、ポスターセッションの後に3~4校のグループによる振り返りの場を設定し、「学びの共有」ができるようにした。小学生は引率の地元校教師が、中高生は代表校の生徒がファシリテーター役になり、感想や気づき、海洋教育への思いなどを出し合った。けっして滑らかな話合いばかりではなく、ぎこちなく、沈黙が多いグループもあったが、事前準備した実践発表を行うだけでなく、顔を合わせて思いを伝え合う経験を重視していたので、大きな収穫があったと考えている。はにかみながら話す子どもたちの横顔を見ながら、経験値を高め、自信をもって自分の思いを語る将来の姿を思い浮かべた。

子どもたちのポスターセッションの様子グループごとに行った学びの共有

海洋教育推進、発展の「鍵」

三つ目は、子ども向けの平易な内容を目指さなかったことである。「こどもサミット」であっても、指導者や大人たちに海洋教育の現状を示し、今後の方向性について考えてもらえるような内容にしたかった。そのためには、子どもたちの実践発表の前に、開催地である気仙沼の今、震災6年目の現状や、海洋教育の置かれた状況を参加者に理解してもらう必要があると考えた。タイムテーブルを調整し、震災後の気仙沼の復興状況を地元高校生が伝え、現場の3人の先生方から海洋教育の事例紹介をしてもらう「共通の学び」の時間を用意した。
唯一の幼稚園として参加した唐桑幼稚園は、海辺で活動する保育がどのように行われているのかその実践を発表した。大島小学校は、2年後に橋が架かり激変するであろう島の暮らしに思いを寄せ、豊富な海の体験活動による海洋教育で地域とのつながりを深めようとする計画を発表した。気仙沼向洋高校は、学科改編や企業とのコラボ商品開発等の時代とともに変化した取組や、伝統のマグロ延縄ハワイ実習等専門高校の実践を紹介した。短時間ではあったが、教師の思いが込められた発表を通して、復興途上の中、地域の自然や産業、暮らしと密接にかかわりながら海洋教育が進められていることが伝わってきた。
震災後の気仙沼を紹介した高校生は、改めて自分たちの暮らしや町の将来を考えたり、海洋教育への思いを新たにしたりすることができたようである。震災で失ったものは多いが、学びを通して「地域に貢献したい」「自分も人の役に立ちたい」という使命感をもった子どもたちが育っている。それはとてもうれしいことであり、大人たちの励みでもある。
子どもたちの成長を促す場が用意できるかどうか、大人も本気で考える場があるかどうかが、今後の海洋教育の推進、発展の鍵になるのではないかと感じた。

成果を生かして

気仙沼市は「海と生きる」を震災復興のテーマとし、教育の場においても、子どもたちの学びと育ちを地域との関係性の中でとらえ直しをしている。古くから行ってきた海に学ぶ学習やふるさと学習の積み重ねを生かしながら、新しい教育の潮流に合致した「海洋教育」として仕立て直そうとしている。本サミットの成果を基に、震災復興で変貌を遂げる被災地での学び、気仙沼の海洋教育を追究していきたい。(了)

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