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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第403号(2017.05.20 発行)

トランプ大統領誕生と日米の海洋安全保障協力

[KEYWORDS]海洋安全保障/日米防衛協力の指針/アメリカファースト
笹川平和財団特任研究員◆渡部恒雄

大統領選挙中に「アメリカファースト」(自国民優先)を掲げ、日本の米軍の駐留費用負担に不満を表してきたドナルド・トランプが米国大統領になったことで、日米の海洋安全保障協力への懸念が高まっている。アジア太平洋地域の安定が崩れてしまえば、日米だけでなく、中国も含むすべての経済に莫大な損害をもたらすことになる。
海洋秩序維持のための日米の海洋安全保障協力は、現在の日本の最大の戦略課題といっても過言ではない。

日米同盟協力における海洋安全保障

2016年の大統領選挙中に、日本の米軍の駐留費用負担に不満を表し、NATO(北大西洋条約機構)の同盟国への条約履行に条件をつける発言をしたドナルド・トランプが米国大統領になったことで、同盟国での懸念が高まっている。日米の海洋安全保障はどうなるのだろう。
日米同盟による安保協力は、日本の領域防衛だけでなく、アジア太平洋地域全体の安全保障の根幹であり、中でも、米第7艦隊が、太平洋から東シナ海、南シナ海、インド洋という広域な海洋の安全保障に不可欠な役割を担っており、日本の対米協力がその一翼を担っていることは、きわめて重要だ。日米同盟の最重要課題が海洋安全保障協力なのである。
2015年4月27日に合意された日米防衛協力の指針※1では、平時の協力から、脅威の発生、そして武力行使への対処まで、切れ目のない対応を可能にするための協力の指針が示されており、海洋における日米協力は、重要な協力項目として準備されている。
例えば、平時における海洋安全保障協力では「日米両政府は、航行の自由を含む国際法に基づく海洋秩序を維持するための措置に関し、相互に緊密に協力」し、「海洋監視情報の共有を更に構築しおよび強化」し、「ISR(情報収集・警戒監視・偵察)※2および訓練・演習を通じた海洋における日米両国のプレゼンスの維持および強化」等で協力する。
脅威が発生した場合の協力的措置には、情報共有や国連安保理決議等に基づく船舶の検査などが含まれる。日本に対する武力行使への対応には、「日本の周辺海域を防衛しおよび海上交通の安全を確保するための共同作戦」が実施される。具体的には、「自衛隊が日本の主要な港湾や海峡の防備、日本周辺海域における艦船の防護などの作戦を主体的に実施」し、「米軍は、自衛隊の作戦を支援しおよび補完するための作戦を実施」する。

トランプ大統領の認識と事実

大統領選挙で「アメリカファースト」(自国民優先)を掲げて当選したトランプ大統領は、これらの同盟のコミットメントをきちんと果たす意思があるのだろうか。
以下の1月20日の就任演説では米国の世界の安定に対するコミットメントは一切発言せずに、自国優先の宣言をした。
─ 何十年もの間、私たちはアメリカの産業を犠牲にし、外国の産業を豊かにしてきました。他の国々の軍隊を援助してきました。一方で、アメリカの軍隊は、悲しくも枯渇しています。私たちは他の国の国境を守っていますが、自分たちの国境を守るのを拒んでいます。─※3
このトランプ大統領の認識は事実とは異なる。米国経済は世界第一位の地位を維持し、マイクロ・ソフトやグーグルなどのグローバルに競争力のある企業が世界経済を力強くけん引している。それらは、世界中に展開する米国の軍事プレゼンスによる安定が担保する自由な経済活動によってもたらされる。特に世界の経済成長をけん引しているアジア太平洋地域の経済は、中東からの海上エネルギー運搬経路であるSLOC(シー・ライン・オブ・コミュニケーション)の安定抜きには考えられないというのが、厳然たる事実である。

「アメリカファースト」のトランプ政権の行方

安倍首相とトランプ大統領会談(出典:首相官邸HP)

トランプ政権は、前オバマ政権が打ち出したアジア・リバランス政策を反故にして、自国に閉じこもるのだろうか? そうはならないだろう。そんなことをしても、米国は豊かにならないことは自明だからだ。オバマ前政権同様、トランプ政権も「世界の警察官」を引き受けるというようなことは言わないだろう。しかし、自国の豊かさを維持するために必須な地域の安定のためには、軍事資源を躊躇なく使い、同盟国との関係を維持するだろう。
それを示したのが、トランプ大統領の2月28日での議会での演説だ。この演説は、これまでのトーンをガラリと変え、「われわれの同盟国は米国が再び世界を率いる準備ができていることを理解するだろう」としてNATOを明確に支持した。さらには、オバマ政権下で縮小してきた国防費のトレンドを反転させ、史上最大規模の国防予算を議会に要求した。
内向きのトランプ、積極的なトランプ、どちらが本当か?それにはわれわれ同盟国の態度も影響する。トランプ大統領は議会演説で、一部の同盟国がすでに負担を分担する姿勢を示していることを歓迎している。事実ではないが、トランプ大統領を支持している米有権者には、同盟国はこれまで米国の努力にただ乗りをしてきて、結果的に米国が経済的に不利な目にあっていると思い込んでいる人も多い。同盟国はこのような誤った認識を払しょくするためにも、目に見える同盟協力を進めていくことが必要だ。
その意味で、2月に行われた安倍・トランプ首脳会談は、日本側が積極的に動くことで、トランプ政権をポジティブな方向に動かしている例と考えるべきだろう。海洋安全保障については、共同声明で、「東シナ海の平和と安定を確保するための協力を深める」ことに合意し、「航行および上空飛行ならびにその他の適法な海洋の利用の自由を含む国際法に基づく海洋秩序を維持することの重要性を強調」し、「威嚇、強制または力によって海洋に関する権利を主張しようとするいかなる試みにも反対」した。
これは大きな成果であるが、おそらく、ビジネスの経験しかないトランプ大統領は、その意味を深くは理解してはいないと思う。しかしこれを基に、日米両国政府が、前述の2015年ガイドラインでの合意をさらに深め、自衛隊と米軍がそれを着実に実行することで、膨大な海洋領域を含む地域の安定を維持することができるだろう。そのような経験をすることで、トランプ大統領にも米国の有権者にも、米国と同盟国が享受している利益の大きさを実感させることができる。
平和というものは空気のように、失われてから初めて気づくものと言われるが、もし今、アジア太平洋地域の安定が崩れてしまえば、日米だけでなく、中国も含むすべての経済に莫大な損害をもたらすことになる。海洋秩序維持のための日米協力は、現在の日本の最大の戦略課題といっても過言ではないだろう。(了)

  1. ※1「日米防衛協力のための指針」 防衛省HP http://www.mod.go.jp/j/approach/anpo/shishin/参照
  2. ※2ISR(Intelligence, Surveillance, and Reconnaissance)
  3. ※3本文の日本語訳はHuffington Postより引用 http://www.huffingtonpost.jp/2017/01/20/trump_n_14287238.html参照
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