Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第402号(2017.05.05 発行)

呉市立豊浜中学校の海洋教育

[KEYWORDS]安芸灘諸島豊島/海洋教育パイオニアスクール/協働ネットワーク
呉市立豊浜中学校校長◆荒谷政俊

瀬戸内海の小さな島にある、全校生徒53人の豊浜中学校は、目の前に瀬戸内海の広がる環境にありながら、生徒は海に親しむ機会をなくしていた。
近隣地域に海洋教育の相談をしたところから、シーカヤック・藻塩づくりや、広島商船高等専門学校の練習船による体験航海が実現した。

瀬戸内海の小さな学校

呉市は地形的に天然の良港と言われ、明治時代以降は海軍、戦後は海上自衛隊の拠点となり、映画『海猿』で有名な海上保安大学校や戦艦大和ミュージアム、てつのくじら館などの施設や博物館があります。2005年には呉市南東部の安芸灘諸島が編入され、豊浜中学校のある豊島もこの安芸灘諸島の一つです。温暖で風光明媚な自然環境に恵まれており、柑橘類の生産や漁業が盛んに行われています。
それまで島々をフェリーで行き来していたところ2008年に豊島大橋が完成し、安芸灘諸島連絡架橋(安芸灘とびしま海道)により15km離れた本土と陸続きになりました。これを機に多くの人たちが本土の企業に自家用車で通勤するようになり、中には病院や商業施設の利便性から本土にも家を建て、農作業のために島に通うスタイルも見られ始めました。呉市は柑橘類の生産者や漁業者のIターンを募りましたが、なかなか進まずにいる結果、1960年代には生徒数500人規模だった豊浜中学校が、2014年には隣の大崎下島の豊中学校と統合し、2つの島が校区となりながらも、全校生徒53人の小規模校となっています。また、隣の大崎上島にある国立広島商船高等専門学校は、船舶職員を養成する伝統校です。通勤・通学をはじめ、船に乗ることが島の生活の一部であった頃には本校からも多くの進学者がありましたが、最近は毎年2〜3名が商船学科以外の電子機械や流通工学科へ進学するのみとなっています。
目の前に瀬戸内海の自然が広がる恵まれた環境にありますが、定期バスで通うようになった生徒にとって海は眺めるだけの対象で、体験を通して海に親しむ機会がなくなり、船や海運に携わる仕事への関心の低さも本土の生徒と変わりません。私も本校に赴任し、日々、自然の雄大さや多島美の美しさに感動していましたが、あまりにも身近にあるためか、海洋教育という視点が欠けているように感じました。そこで、進学のための学校説明に来られた商船高専の先生や、隣の上蒲刈島にある「蒲刈B&G海洋センター」「藻塩の会」に本校の海洋教育の取り組みについて相談したところ、快く協力して下さることになりました。

シーカヤックと藻塩づくり

2016年8月の終わりの1日、隣の上蒲刈島にある広島県運営の「蒲刈県民の浜」で、1年生と3年生が午前と午後のグループに分かれシーカヤックと藻塩づくりの体験を行いました。当初は、シーカヤック体験のみの計画だったところ、蒲刈地区で古代の塩づくりを復活させた郷土史研究グループ藻塩の会を紹介していただき、藻塩づくりも合わせての体験となりました。
シーカヤック体験では蒲刈B&G海洋センターの指導員の下、救命胴衣の着用から、舟とオールの取り扱い、転覆時の対処法までを教わり、海に漕ぎ出しました。生徒は瀬戸内の潮風を体に受ける爽快感に喜び、シーカヤックを追いかけ、海に飛び込む者もいました。最後に沖合のブイまで競争しました。
藻塩は万葉集にも詠まれた古代土器製塩法で、海水に浸したホンダワラ(玉藻)を乾燥させる工程を繰り返して海水濃度を高めた「かん水」をつくり、素焼きの土器で煮詰めて塩を採ります。かん水の完成には、ホンダワラのうま味と色を溶け込ませた濃い茶色の海水と、藻を乾燥させて焼いた炭灰を混ぜ合わせて布巾でこす、時間と手間のかかる作業が必要で、藻塩の会の方が準備して下さっていました。
続いて深さ20cmの穴を堀り、石を敷き詰めて炉を作り、炭をおこして敷き詰め、土器を並べ、そこにかん水を入れてグラグラ煮る作業になります。生徒は吹きこぼれないようにかん水を少しずつ加えながら水分を蒸発させ、それを繰り返します。1時間ほどの作業ですが、吹きこぼれそうになると、柄杓の柄の部分を差し入れたり、かん水を追加したりで目が離せません。結晶ができ始めるタイミングを見て炉から出します。でき立ての塩の粒を、蒸かしたジャガイモにつけて美味そうに頂いていました。
体験施設の隣には、 古代製塩遺跡復元展示館という古代土器製塩遺跡を発掘したままの状態で保存し見学できる復元施設もありました。この日「蒲刈県民の浜」の方が特別に鯛を一尾まるごと米飯に炊き込んだ鯛めしも準備してくださり、生徒は大感激でした。「夏の暑さと加熱の熱さですごく大変だったけれど藻塩はおいしかった」「古代から同じ方法で作り、同じ味を食べられると思うと不思議だ、 こんな貴重な体験が出来て良かった」と喜びの声があがりました。

「シーカヤック」体験藻塩つくりの体験

海運業界と船員の仕事

前述の国立広島商船高等専門学校の教授から、海運業界や船員の仕事についてお話を聞く機会を持ちました。ビデオや資料を使った講義で、生徒は日本の海運のおかれている状況について知り、船員の仕事に興味関心を持ちました。続いて今度は商船高専に行き、実習船「広島丸」を見学する計画を立てたところ、その取り組みを知った(一社)日本船主協会から、尾道水道での「広島丸」体験航海の招待を受けました。乗組員や学生さんの案内により船内を見学し、救命具の着用体験などを行いました。また航海士の方から実際に日本の海運業界の状況や船員の仕事についてのお話も伺いました。いつも眺めている陸上からとは違った風景や、船の操舵室、機関室の様子に生徒たちは興味を示しました。この貴重な体験を通して、「商船高専は日本の輸出入を支え、私たちが生活するのをサポートして下さる大切な人材を育てていると知った」「実際に船に乗って外国に実習航海に行くので、英語の勉強が大切だと分かった」「私の知らない世界で、みんなの幸せのために、一生懸命仕事をしている人がいる。私もみんなの幸せにつながる仕事に就きたいと思う」といった感想が寄せられました。また生徒たちは、体験活動を通して海洋資源・環境について深く考えました。

尾道水道での「広島丸」体験航海

新たな活動に向けて

今回初の取り組みの中で、B&G海洋センター、藻塩の会そして広島商船高等専門学校と連携して海洋教育活動ができました。この繋がり(協働ネットワーク)は今後の活動が展開する上でとても重要です。これからは地域の恵まれた自然や文化を生かし、生徒の自主的な企画と、地域を巻き込んだ活動として、例えばシーカヤックを使った島めぐり体験、案内板の作成、地域外の方に地域の魅力を紹介する動画や英語のパンフレット作りなど新たな活動を考えています。(了)

  1. 「古代の塩づくりで古代人の知恵を学ぶ」松浦宣秀、本誌第211号(2009.5.20)参照
  2. 豊浜中学校の取り組みは、2016年度海洋教育パイオニアスクールプログラムの支援を受けて行われた。
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