Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第386号(2016.09.05 発行)

編集後記

山梨県立富士山世界遺産センター所長◆秋道智彌

◆2000年代初頭の夏、中国海南省の海南島を訪れた。島の南端にある三亜(サンヤー)市は熱帯の一大リゾート地となっており、市内には海鮮料理店も多い。三亜の漁港に足を向けると、そこにはかごや容器をもった多くの女性がいた。彼女らは、数カ月の禁漁期間後、漁に出ていた大型漁船からの初水揚げの現場に集結していることがわかった。中国は南シナ海の公海、パラセル(西沙)諸島、スプラトリー(南沙)諸島を含む広大な海域で漁業規制をおこなってきた。当時はその程度しか考えずにいたが、南シナ海の情勢はその後大きく動いた。中国は九段線内の南シナ海の囲い込みと領有権の主張、軍事基地化を進め、世界を憂慮させている。これに抗して、フィリピンは南シナ海の領有権をめぐり、2013年1月にオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に提訴した。そして、今年その判決が下され、中国は完全に敗訴した。
◆東北大学大学院の西本健太郎氏は、今回の判決により中国は南シナ海を公海として自由に利用していたにすぎず、比中間の紛争は南シナ海のサンゴ礁島の周辺12海里をめぐる争論に転換したと位置づけている。わが国にとっても南シナ海は重要な輸送路にあたり、日本を部外者扱いする中国にたいしては関係諸国と一層の連携を踏まえた交渉が重要となる。南シナ海における大規模な埋立ては、海洋における生物多様性維持の観点からも強く非難すべきであろう。南シナ海以外の熱帯海域におけるIUU漁業は東南アジアやインド洋でも報告されており、水産物が南シナ海を経由して中国に輸送される点にも注意を喚起したい。
◆一度失われた豊かな海を人間の力で取り戻すことは容易ではない。瀬戸内海の備前市にある日生(ひなせ)の海はかつてアマモが繁茂する豊かな里海であった。明治時代における漁業の種類を見ても、小規模だが多様な漁業がおこなわれていた。戦後、アマモは激減したが、地元の漁業者や里海づくりの有志を中心にアマモ再生事業が1985年にスタートし、見事に復活を果たした。備前市で里海づくりを推進してきた田中丈裕氏は、今年の6月に地元で開催された全国アマモサミットの牽引者である。田中氏は、地元の日生中学校の生徒たちによる演劇発表を含む、地元基盤型の世代を越えた取り組みを成功させた。海を破壊して国益と権益を拡大するのとはまさに対極にある活動として高く評価したい。このプロジェクトは本年度の「海洋立国推進功労者表彰」を受賞する朗報が入ってきた。「里海づくりは人づくり」とする田中氏の思いが全国に広がる大きな契機となるだろう。
◆大型船舶は今やなくてはならない輸送機関であるが、温暖化防止、省エネルギー、排気ガス削減が叫ばれるなか、新機能満載の自動車輸送専用大型船が今年の2月に誕生した。「ドライブ・グリーン・ハイウエー」がそうだ。太陽パネルを搭載し、水耕栽培の野菜を食べながら外洋を航海する船に乗ってみたいと思う人はすくなくないはずだ。環境に大きく配慮した日本の技術の結晶は、大型輸送船を生産する中韓の業界のみならず世界に向けて発信するスーパー・ヒーローといえそうだ。(秋道)

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