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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第386号(2016.09.05 発行)

アマモ場再生活動30年の歩み ~"全国アマモサミット2016 in 備前"に思うこと~

[KEYWORDS]つぼ網/里海・里山・まち/人づくり
NPO里海づくり研究会議理事・事務局長、全国アマモサミット2016 in 備前実行委員長◆田中丈裕

アマモ場再生活動約30年間の集大成として、「全国アマモサミット2016 in 備前 備前発!里海・里山ブランドの創生〜地域と世代をつなげて〜」が2016年6月3日〜5日に岡山県備前市日生(ひなせ)町で開催された。
活動のはじまりから全国アマモサミットの大会宣言を経て、沿岸域の総合的管理を基軸に、里海・里山ブランドの創生と真の意味での循環型地域社会の実現を目指す新たな動きを紹介する。

はじまりのはじまり

筆者がつぼ網漁師の本田和士氏に初めて会ったのは、1981年盛夏、岡山県の水産技師として水産業改良普及員をしていた頃のことであった。
国を挙げて栽培漁業が華やかなりし頃...その日は日生(ひなせ)町漁協の職員や組合員総出で、囲い網で中間育成していたクルマエビ種苗の放流作業であった。備前市日生は、岡山県東端に位置する古くから漁業の盛んな地域である。当時27歳だった筆者は、長さ300mの囲い網を引き上げるため、潜って"いわ"(沈子チェーン)をはずしていった。潜水作業を終えて陸に上がると、大勢の中で皆にてきぱきと指示しながら要領よく作業をこなしていく人がいる。その人こそ、当時つぼ網組の組長を務めていた本田氏(後の組合長)であった。
しばらく立ち話をするうちに、本田氏は座り込んで大きなため息をついてから、海を見ながら熱っぽく語り始めた。「稚魚を放流するだけでは魚は戻らない。日生の海は本来アマモの海、まずこれを回復させないと...」という。つぼ網(小型定置網)は、魚の通り道に網を仕掛けて獲る待ち受け漁法である。つぼ網漁師は、地先沿岸に広く点在する網代での長年の漁の経験を通じて、さまざまな魚介類の生活史や成長・季節変化に伴う移動経路を熟知している。そして、日がな一日、破れた網を浜に広げ繕いながら海と向き合ってきた。本田氏は、稚魚の育つ場所と成長して移動していく過程で棲み場所の環境が整っていないと、いくら稚魚を放流しても駄目だというのである。
日生の海には1950年代まで約590ヘクタールものアマモ場があったが、1985年には約12ヘクタールまで激減、その後さらに減少して僅か5ヘクタールになってしまった。岡山県水産試験場としても、1960年代に入ってからの県下アマモ場の著しい衰退現象に危機感を募らせており、1979年からアマモの種子採取技術の開発に着手、ついに1985年に実用化させた。この朗報を知った日生の漁師たちは、水産試験場にすぐさま連絡を取り、協力を要請、つぼ網組漁師19名、青年部の有志4名とわれわれの総勢26名で、アマモ場再生に取り組み始めたのは同年のことである。

諦めず続けてきたからこそ今がある

日生中学校生徒たちによる演劇

2016年6月3~5日、日生の地において、「全国アマモサミット2016 in 備前 備前発! 里海・里山ブランドの創生〜地域と世代をつなげて〜」が開催され、筆者が実行委員長を務めた。6月3日、日生中学校の生徒達と外部からの一般参加者協働による「流れ藻回収大作戦」と沿岸環境関連学会連絡協議会ジョイント・シンポジウムからのスタートであった。
シンポジウムのテーマは「我が国沿岸域におけるアマモ場再生への道〜これまでとこれから〜」である。アマモ研究者が一堂に会し、漁師達とともにこれまでのアマモ場再生の歩みを振り返り、アマモ場の持つ多面的機能に関する最新の知見を集約してその重要性を再認識するとともに、アマモ場再生技術の現状と課題を総括することができた。
6月4日には全国アマモサミット2016 in 備前の本大会が開催された。第1部「アマモ場再生活動30年の歩み〜振り返りと将来展望〜」の目玉は、日生中学校生徒による演劇『海に種まく人々』である。日生における30年に及ぶアマモ場再生の歩み、打ちのめされながらも挫けることなく250ヘクタールまで回復させた経緯、回復を見届けた後の本田氏の急逝など、人間ドラマを子供たちが見事に熱演し、会場は笑いと涙と感動の渦に巻き込まれ、いつまでも鳴りやまぬ拍手を呼んだ。これに続くパネルディスカッション「海の守人たちの声」では、劇中の主な登場人物である漁師たちが登壇し、日生中学校を卒業した2人の高校生がインタビュアーになって、彼らの熱い思いを引き出していく趣向である。積年の苦楽に裏打ちされた本物の漁師たちの声に、会場は一気にひとつになっていった。
第2部「アマモ場再生への道〜里海づくりが目指すもの〜」は、前日のジョイント・シンポジウムの成果報告に始まり、パネルディスカッション「全国各地の取り組み〜地域をつなぐ里海づくり〜」では、全国の浜で活躍する7名が登壇し、会場からの質問や意見、提案などが止むことなく大いに議論が盛り上がった。第3部のパネルディスカッションのテーマ「備前発! 里海・里山ブランドの創生〜地域と世代をつなげて」は、本サミットのメインテーマそのものである。笹川平和財団海洋政策研究所の古川恵太氏をコーディネーターとして、「里海」、「里山」そして「まち」から、漁師、陶芸作家、消費者、NPOなどさまざまな立場から6名のパネリストが登壇し、冒頭から会場の参加者を巻き込むスタイルで進行しながら、いよいよ熱を帯びた議論が展開された。
6月5日の「第4回海辺の自然再生・高校生サミット」では、若い世代ならではの新鮮な発想とエネルギーに溢れる発表が繰り広げられた。3日間にわたる会期中の参加者数は北海道から沖縄まで全国から2,000名に達した。

全国アマモサミットから新たなステップへ

高校生たちと"全国アマモサミット2016 in 備前"大会宣言を発表する筆者(中央)

『海が健全であり続けるためには、森・里・川・海のそれぞれにおいて、人が生きていくための営みを保ちながら、人々が暮らしを通じて適切に関わり、水を介した森里川海の繋がりを維持することが大切である。われわれは、地球生態系のなかで生かされ、地球生態系は大きな物質循環の中で維持されている。われわれは、これを守っていくために、われわれの未来そのものである若者を育て、地域を越えた人の繋がりを礎にネットワークをさらに広げ、「里海」・「里山」・「まち」がつながり、自然と人が共存するための有るべき姿を実現し、国内外に広く発信し続けることを、ここに宣言する』。最終日の6月5日のクロージングイベントにおいて、子供たちや高校生たちとともに発表した全国アマモサミット2016 in備前大会宣言の主旨である。
備前市は、この大会宣言を礎に、沿岸域の総合的管理を基軸として、里海・里山ブランドの創生と真の意味での循環型地域社会の実現を目指そうと動き出した。
それぞれの地域で人々が生きていくのに最も重要なのは、それぞれの場所、場所で積み重ねられた経験とそこに生きる人たちの環境への深い理解と情熱である。「里海」や「里山」の資源・資本とは「人」そのものである。やはり、「里海づくり」は「人づくり」なのである。そのことを海の先輩たちは教えてくれたのだと、この度のサミットを終えてひしひしと感じている。(了)

  1. 全国アマモサミット2016 in 備前http://amamo-summit2016.com/
  2. 速報:2016年8月25日付で日生町漁業協同組合が「アマモ場の再生」の功績で、第9回(平成28年)海洋立国推進功労者表彰を受賞。
    詳細はこちら
    http://www.mlit.go.jp/report/press/kaiji01_hh_000374.html
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