Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第333号( 2014.06.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆梅雨の季節である。梅雨入り前の6月初めの全国的な真夏日から一変して、梅雨入り直後は記録的な豪雨が列島を襲った。熱帯太平洋に目を転じると、予測どおりに5年ぶりのエルニーニョ現象が発達している。今回のエルニーニョ現象は冷夏だった2009年と同様に日付変更線付近にも暖水が貯まるエルニーニョモドキの様相も帯びているようだ。インド洋には負のダイポールモード現象の兆しもみられる。深刻な冷夏で一兆円以上の作物被害を出した1993年にもこの二つの現象が同時に起きていた。ちなみに、5月の国内最高気温37.2度が秩父で記録されたのはこの冷夏の年である。加えて今年は厳冬のせいで日本近海の水温は異常に低い。偏西風の蛇行に伴う更なる異常気象が心配である。
◆東アジア情勢にも天候同様に暗雲が垂れこめている。政治の世界にとどまらず、海洋科学調査さえも難しくしているのは深刻である。国際科学会議(ICSU)のアジア太平洋地域委員会(RCAP)では、体制を越えて利害を共有できる「海の健康」問題で協働する「東アジアの縁辺海の持続可能性イニシャチブ(SIMSEA)」計画を準備中である。科学データを積み重ね、論考を展開して、学術世界の信頼を醸成していくことは、相互理解の増進に最も有効な手立てである。海洋利用の歴史的、文化的多様性を尊重し、環境と生態系の持続的な保全に向けて協働する基盤にもなる。学術的連携が国家間の暗雲を吹き払うのに貢献できないものかと思う。
◆今号では、まず、石村学志氏に気仙沼延縄漁船団のヨシキリザメ漁業認証取得に向けた努力について紹介していただいた。地域特有の文化と歴史を持つサメ漁業への国際的理解を、科学データに基づく認証取得により深めてもらおうという試みである。持続可能な漁業に向けて、グローバルな視点と地域社会の視点の融和を目指すものとして一層の進展を期待したい。
◆小野林太郎氏には八重山諸島の屋良部沖海底遺跡を中心とする「海底遺跡ミュージアム構想」について解説していただいた。2009年に発効した「水中文化遺産保護条約」をわが国や米国などは批准していない。排他的経済水域の資源管轄権に関して沿岸国の権限が強すぎることが国連海洋法条約に照らして問題とされている。水中文化遺産は海洋の非生物資源であるが、エネルギーや鉱物資源とは異なり、観光、文化資源である。こうした資源についても、適切な保全策と活用策を策定し、世界に発信していくことは、観光立国をめざすわが国の海洋政策において重要である。
◆柳 哲雄氏には閉鎖性沿岸海域の環境保全情報交流拠点として神戸に設置された国際エメックスセンターの活動を紹介していただいた。柳氏は里海コンセプトを提唱された方であるが、そのコンセプトの下で持続可能な沿岸海域の実現をめざして、特性の異なる瀬戸内海、三陸沿岸海域、日本海の科学的知見をもとに地域行政に貢献する環境省プロジェクトを推進中である。学際的プロジェクトにとどまらず、さまざまなステークホルダーとの共同設計を含む超学際的試みとして、成果が今から楽しみである。(山形)

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