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第333号( 2014.06.20 発行)
第333号(2014.06.20 発行)

「持続的」サメ漁業認証にむけた気仙沼近海延縄漁業

[KEYWORDS]持続的漁業認証/サメ/東日本大震災
北海道大学サステイナビリティ学教育研究センター特任助教◆石村学志

東日本大震災によってすべてを失い、反サメ漁業キャンペーンに苦しむ気仙沼近海延縄漁船団によるヨシキリザメ漁業が、国際持続的漁業認証取得に向けて動き出した。
本来、国際持続的漁業認証取得の動機は市場での差別化と付加価値向上であるが、気仙沼近海延縄漁船団は誇りを持って漁業続けてゆくために多くの困難のなかで取得への一歩を歩み出している。

気仙沼近海マグロ延縄船とヨシキリザメ

■近海延縄船から気仙沼港への水揚げは23時頃に始まる。

■気仙沼港に水揚げされたヨシキリザメ

2011年3月11日大地震が引き起こした大津波は漁業、そして気仙沼の中心産業であった水産加工業を壊滅させた。大津波、そして、その後の燃料タンク流出による大火災によって大半の漁船が失われるなかにあって、遠く中西部北太平洋の公海上で操業していた気仙沼を基地とする近海延縄漁船はその多くが生き残った。
気仙沼近海延縄漁船団の年間水揚げ金額は約55%がメカジキ、約35%がヨシキリザメのそれぞれの漁獲からのものであり、この二魚種で約9割を占める。世界中でヒレのみを利用して魚体を遺棄するフィンニングがサメ資源乱獲という観点から問題となるなかで、気仙沼には世界で唯一、サメの高度利用が可能な産業クラスターが存在し、身をすり身やフィレに、骨や皮を健康食品や化粧品へとサメを余すことなく利用することができる。気仙沼近海延縄漁船からのヨシキリザメ水揚げに基幹産業であるサメ加工業は大きく依存してきた。気仙沼近海延縄漁船団は地域の雇用創出の原動力の大きな要であった。
震災からすでに三年がたとうとしているが、気仙沼近海延縄漁船団によるヨシキリザメ漁業の再生には未だに多くの問題が横たわる。震災前は1キロ200円以上だったヨシキリザメの水揚げ価格は、いまは150円を下まわり、経営は苦境に陥っている。震災によるヨシキリザメ水揚げ価格低迷の原因は震災による加工施設喪失と震災後の供給停止による市場喪失(震災で水揚げがない間に県外の加工業者が代替品への切り替えをおこなった)ための需要減少が大きい。しかし、それ以上に深刻な影響を与えているのがサメ漁業に対する偏った海外メディアによる報道や国内外の環境団体による反サメ漁業キャンペーンによる需要の落ち込みである。
フィンニングは、ヒレだけを切ってサメの魚体を海上で投棄することによって、漁船の本来の収容量以上のサメ漁獲を可能にする。ヒレだけをとり、魚体は捨てるというフィンニングによるサメ漁が、サメ資源の乱獲を招いてきた※1。世界という大きな視点にたつのならば、それは言い逃れようのない現実であるかもしれない。また、他の魚類と比較し成長速度の比較的遅いサメ類には予防的措置 (precautionary approach)による資源管理をおこなうことも大切だ。しかしながら、世界中に様々な人種がいるように、サメにもさまざまな種類がある。さらに、同種のサメであっても地理的に独立した個体群(stock)が生息する。そうした、個別の個体群の資源状態とそれを漁獲する個々の漁業をしっかりと見極めることなく「サメ」というだけで一括りにする盲目的な批判やキャンペーンが国内外問わず多い。
気仙沼近海延縄漁船団が漁獲対象としているヨシキリザメの北太平洋群は資源管理をおこなう地域漁業管理機関(Regional Fisheries Management Organization)科学委員会から1990年から資源量指標が増加しているとする報告がされている※2。また、前述のとおり、フィンニングも現在おこなわれておらず、サメ漁獲のすべての部位が有効に利用されている。しかし、昨年から国内の一部の団体の心ない反サメキャンペーンのターゲットとされ続けている※3。歴史や文化を含め、さまざまな理由からサメ漁業に生きる人々が、そして、そのサメ漁獲の加工を生業とする人々がこの気仙沼に生活する現実を蔑ろにし、一方的な情報を一瞬で世界に広げる彼らの手法は、世界に対し自分たちの思いを伝える手段を持たない気仙沼には、あまりに非情な「正義」ではないだろうか。

国際共有資源と持続的漁業認証

いま、この気仙沼近海延縄漁船団はヨシキリザメ漁業における持続的漁業認証であるMSC認証取得に向かって動き出している※4。しかし、その動機とは、一般的なMSC取得動機とは異なる。まず、ヨシキリザメの北太平洋群は公海上で漁獲される国際共有資源である。また、フカヒレ市場は日本国内に留まらず、海外、とくに中華圏での需要が高い。国際的に認められる漁業で国際共有資源を漁獲し、海外の消費者にも、水揚げを買ってもらわなければ、この漁業を存続させることはできない。大震災により打ちのめされ、追い打ちをかけるように価格低迷や驕慢なネガティブキャンペーンで、財政的にも、精神的にも追い詰められている気仙沼近海延縄漁船団にとって、こうした国際認証を取得するための人材や資金をだすことは容易なことではない。しかし、それ以上に、誇りを持って漁を続けるため、国際的に認めてもらうことは重要であると漁業者は言う。気仙沼近海延縄漁船団が目指すのは価格向上・市場開拓ツールとしての水産エコラベルではない。海外メディアや国内外環境団体によって湾曲されたイメージを与えられがちなヨシキリザメ漁業にMSC認証を得ることで、持続可能な漁業を実践していることを世界に示すためである。

最後に

日々のなかに埋もれている、日本の漁業が抱える苦難も、葛藤も、そして宿命さえも、気仙沼近海延縄漁船団はしっかりと受け止めようとしている。偏見に屈したり、黙したりするのではなく、日本の論理に抱きかかえられるのでもなく、いまここにある現実の日々を生きるために、このサメ漁業に対する国際的な持続的漁業認証取得へ歩みはじめている。必要なのは、この漁業が日本のみならず、世界のできる限り多くの人々に認めてもらうこと。また、魚を穫り、糧とし、日々を生きることの誇りをこの漁業にたずさわる人々が見いだすことができればと願う。いま、気仙沼近海延縄漁船団は、日本のあたらしい漁業の形をもとめて一歩を踏み出している。(了)

※1 フィンニングについては、鈴木隆史「国際的なサメ保護運動の行方」、本誌308号(2013年6月5日)を参照下さい。
※3 「『ふかひれスープ』販売中止運動に対する無印良品の毅然とした反論が素晴らしい(2013年6月9日)」 http://bylines.news.yahoo.co.jp/shinoharashuji/20130609-00025565/
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