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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第323号( 2014.01.20 発行)
第323号(2014.01.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆新しい年を迎え、あらためて列島とそれを取りまく海に思いを馳せた。冬場、太平洋沿岸の海は好天に恵まれ穏やかだが、日本海側には鉛色の空と荒れ狂う海がある。北の北海道は銀世界にあるが、南の琉球列島は早くも彼岸桜が春の到来を告げている。前年の2013(平成25)年、日本を取りまく海の政治情勢は大きく揺れ動いたが、海そのものも大きく変化しつつある。海に起こる海洋学的・生態学的な変化を年ごとではなく、数十年単位で探る研究からさまざまなことがらが明らかになってきた。
◆北海道大学で水産科学を専門とする桜井泰憲教授は列島周辺海域を回遊するスルメイカの回遊パタンに着目した。スルメイカをはじめ、日本人にはなじみ深いマイワシ、カタクチイワシ、マアジなどの表層性回遊魚の個体数が水温の温暖期、寒冷期に応じて大きく交替するレジーム・シフト現象がここ10年ほどのあいだに知られるようになった。桜井教授によると、スルメイカの回遊パタンや分布特性はグローバルな温暖化現象や水温の周期変動を探る重要な指標になるとのことだ。ここ10数年、毎年秋に知床半島羅臼沖にイカ釣り漁船が集結する様子が衛星画像でみられるという。かつて、日本海秋田沖の大和堆、島根県隠岐島周辺や長崎の対馬沖でもイカ釣り漁船の漁火は日本の海の様子をリアルタイムで伝えてきた。イカ釣りに従事する全国各地の漁民の操業上のご苦労が目に浮かぶ。
◆イカやイワシ、アジなどが回遊する海域の外側を流れる黒潮の動きも目がはなせない。(独)海洋研究開発機構の宮澤泰正氏は、黒潮の大蛇行が謎に満ちた海洋現象であると位置づけ、北半球全体における気候変動との関連性の解明に大きな夢を抱いておられる。さらに宮澤氏は黒潮の潮力エネルギーを活用する構想を提起されている。もちろん、将来的には台湾との国際的な折衝など、政策上の課題も浮上することは間違いない。
◆台湾に程近い琉球列島は日本のフロンティアに位置することは明白だ。しかし、琉球弧は本州からみれば辺境とうつる。そうした中心―辺境史観は歴史的にみても従来からあった。琉球大学国際沖縄研究所の藤田陽子所長は、琉球弧を新たな島嶼学の視点から捉え直す文部科学省のプロジェクトに現在、取り組んでおられる。アジア・太平洋地域のなかで島嶼国や島嶼部を正当に位置付ける構想は前からあった。わたしもそのことを主張してきた。しかし、昨今の尖閣列島と領海の安全保障と海洋権益問題、米軍基地の移転とオスプレイの配備、サンゴ礁における生物多様性の保全、急増する中韓台からの観光客問題など、従来にはない視点からの産学官の連携と新機軸の提案がのぞまれる。魚のレジーム・シフト、黒潮大蛇行、琉球弧からの学的な新展開。列島を取り巻く海は今年も大きく揺れ動くに相違ない。心して対処したいものだ。(秋道)

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