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第287号( 2012.07.20 発行)
第287号(2012.07.20 発行)

大陸棚の延伸

[KEYWORDS] 国連海洋法条約/大陸棚/勧告
内閣官房 総合海洋政策本部事務局 内閣参事官◆谷 伸

わが国は、本年4月、延伸大陸棚に関する勧告を大陸棚限界委員会から受領した。日本の大陸棚はどう拡がり、わが国の海洋政策はどうなるのか。2001年以来大陸棚延伸申請関連業務に従事してきた視点から、大陸棚延伸とその意義について報告する。

大陸棚とは何か

大陸棚とは、陸に引き続き水深140m程度まで続くなだらかな海底地形をいう。この海域における海底資源については1958年の大陸棚条約があったが、1982年の国連海洋法条約(以下「条約」)では、200海里までまたは領土の自然の延長を辿って大陸縁辺部(棚・大陸斜面等、大洋底以外の海底)の一番外側まで(上限あり)を大陸棚とし、沿岸国の排他的権利を認めた。条約は、200海里を越えて大陸棚を設定する場合には、大陸棚限界委員会(以下「委員会」)に科学的資料を提出し(以下「申請」)、委員会の勧告に基づくことを求めた。

わが国の申請と委員会の勧告

■200海里を越える大陸棚

図出典:総合海洋政策本部ホームページより

海上保安庁(以下「海保」)は、条約採択直後の1983年から大陸棚調査を開始した。4つのプレートがせめぎ合い、世界で最も複雑な海底地形・地質と言われているわが国周辺海域において、大陸棚を最大限に拡張するため、2004年からは政府一丸、官民一体となった調査を内閣官房の総合調整の下に開始し、その成果に基づき、7海域についての申請を2008年に行った。これに対し委員会は、申請を詳細に審査し勧告案を作成する小委員会の委員7人のうち5人に小委員会委員長経験者を据えるという空前の超豪華布陣でわが国の高度な申請に応え、2012年4月に勧告を発出した(図参照)。
勧告では4海域(約31万平方km)について委員会の同意を得た。1海域(約25万平方km)については勧告の発出が先送りされ、2海域については同意を得ることができなかった。4海域についても申請どおりの同意ではなく、その理由はほぼすべて、わが国が大陸縁辺部とした部分に大洋底が含まれる、というものである。わが国周辺海域では大洋底にも複雑な起伏があり、海底が大陸縁辺部なのか大洋底なのかを判断することがきわめて難しい。このことがわれわれの申請に対し、100%の同意が得られなかった主因であり、これまでに勧告を得た他国とは事情が大きく異なる点である。このような状況下での31万平方km(勧告を得た18の申請中第6位)は意義深いものである。同意を得られなかった海域については、条約上、再申請を行うことが可能であり、勧告の詳細な解析を行って再申請の可否を見極めていきたい。1海域で勧告の発出が先送りとなったのは「沖ノ鳥島は排他的経済水域や大陸棚を条約上持てない『岩』に過ぎず沖ノ鳥島関連海域を委員会は審査すべきでない」という中国および韓国の主張が背景にあるが、委員会は四国海盆海域については沖ノ鳥島を起点とした大陸棚延伸申請に同意して勧告を発出しており、先送りされた九州パラオ海嶺南部海域の審査が再開されるようわが国は全力を挙げていく。

大陸棚延伸の過程で起きたこと

時間的制約がある中で国家主権がかかった課題を解決するため、火事場の馬鹿力が発揮された。ふだんだったら起きなかったこと、と私が感じていることを申し上げる。
海洋への認識の向上=委員会の行った最初の勧告がロシアに厳しいものであったことから、大陸棚延伸問題に注目が集まった。この問題が政治の世界で知られるに連れ、そもそもわが国には海洋政策というものが存在しないことが指摘され、海洋基本法制定への大きなうねりに結びついていった。
政府一丸となる体験=政府・民間一丸となった大陸棚延伸は、省庁の縦割りを破った好事例とされている。その背景には政治の力があった。扇千景参議院議員が大陸棚延伸問題の重要性に着目されて大陸棚調査推進議員連盟を2004年に立ち上げられ、参議院議長就任時に福田康夫衆議院議員へ会長の任を引き継がれ、渡辺喜美衆議院議員を幹事長として極めて精力的に勉強され、役所を叱咤激励された。それぞれいろいろな思いがある役所側としても、議連が一致団結して長期にわたりいつも見張っておられる中で、いつの間にか溶け合っていった。
継続の価値の体験=海保および地学関連の3独立行政法人並びに外務省から計26人の専門家を得て、地学・法学の権威からなる助言会議の指導の下、調査結果を解析し、時には調査計画を変更して、わが国の延伸大陸棚の面積を最大にすべく熱気に溢れた日々を送った。4年にわたり調査・解析・申請書作成を担当した専門家集団は、引き続き3年間の審査対応にも力を発揮した。優秀な専門家の人事異動が長期間凍結されたことは、今回の成功を導いた大きな要因である。

大陸棚延伸がもたらすもの

海底資源=200海里以内に延伸部分を加えたわが国の大陸棚は、将来にわたり排他的に海底資源を利用できる海域である。海底資源として現在脚光を浴びているメタン・ハイドレートも熱水鉱床も、またその遺伝子や酵素に注目が集まる深海底の見慣れない生物も、大陸棚調査が始まった30年前には存在が知られていなかった。これから30年後、どのような資源が見つかっているか、次世代を担う人達に託す夢である。
科学が築く未来=調査で得られたデータは、地球科学に新たな展開をもたらし、今後も科学や産業の発展に貢献していくだろう。大規模な延伸調査をシステマティックに行った経験は、今後、海洋における諸活動を行う際の大きな自信となる。データやノウハウも大陸棚延伸がもたらす宝である。

謝辞

大規模で危険を伴う調査だが、2008年に成功裡に完了できた。船上作業に従事された延べ32万人日の方々のご尽力に真っ先に御礼申し上げる。
主権範囲の拡大という担当官庁が存在しない業務に対し、多くの組織の好意的な協力を得てきた。中でも一調査官庁に過ぎない海保が業務、予算、人事面で大変な無理をして勧告に至るまで全面的に尽力されたことは特筆したい。海保の貢献なしには今回の成功はなかった。
海保が単独で調査していた時代からご指導頂き、2002年からは委員会委員として、2003年からは助言会議委員として、委員会とわが国の大陸棚延伸を導いてこられた玉木賢策先生が、昨年3月、委員会での審議中に突然身体の不調を訴えられ、ニューヨークで帰らぬ人となられてしまった。筆舌に尽くせぬ痛恨である。ここまでの道のりは先生のご指導の賜物であり、また、これからの道のりも見守って頂けるものと思っている。心からお礼申し上げ、ご冥福をお祈りする。(了)

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