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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第201号( 2008.12.20 発行)
第201号(2008.12.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆海はさまざまな物質やモノを運ぶ。流木やプラスティック製品は波間をただよって移動する。クラゲやプランクトンも海を浮遊しながら場所を変える。海水に溶解している栄養塩類などはどうだろうか。海の水は流体であり、溶解した物質も波や風のエネルギーとともに運搬される。本号では塩、溶存鉄、ゴミがテーマとされている。山本光夫さん(東京大学)は、日本や世界中で発生している磯焼け現象を修復するために、鉄鋼スラグと腐植物質を利用した豊かな海の森再生プロジェクトを進めておられる。溶存鉄は川から海へと輸送され、そこで海藻に吸収される。以前、白岩孝行さん(総合地球環境学研究所)はシベリアのアムール川からオホーツク海に供給される溶存鉄に注目し、森―川―海をつなぐ「巨大魚付き林」構想を本誌176号で提示した。ダムなどで川からの溶存鉄の輸送が中断すると、その影響は計り知れないほど大きい。
◆鉄は川を通じてだけ海に運ばれるのではないことに注意しておこう。地球上にある砂漠の砂が風で舞い上がり、気流とともに移動する。アジア地域では、タクラマカン沙漠やゴビ沙漠起源の黄砂が日本海や太平洋へと飛んでいく。ぜん息の元ときらわれる反面、最近、黄砂の粒子に微小な生き物や鉄分などが付着して移動することが確かめられるようになった。黄砂は海に鉄を運ぶ「めぐみ」の使者となるわけだ。アルカリ性の黄砂は酸性雨を中和する働きもする。黄砂はいい面、悪い面を含めていろいろな物質を運ぶことがわかる。
◆海も有益な物質とともに有害な物質を輸送する。海水に含まれるさまざまな栄養塩類や溶存鉄は前者の例であるし、公害や健康障害を引き起こす物質、オイルボール、不燃性の海洋投棄物などは後者の例だ。ところが、海のゴミが人間の生活になくてはならない恩恵をもたらす例がある。鈴木佑記さん(上智大学)はタイ西部アンダマン海の住民であるモーケンの暮らしに注目した。モーケンはかつて船上での移動生活を送っていた。しかし、貨幣経済の浸透や国家による自由な移動の禁止政策、海中国立公園化による資源利用の規制などによって、伝統的な海上移動生活を放棄せざるをえなくなってきた。挙句の果てに、人々は現金を獲得するために海のゴミを売って生活することを余儀なくされている。ゴミは生活の糧というわけだ。それだけゴミの量が多いのだと認識を新たにしつつ、現代の環境問題の深さを実感する。
◆海水に含まれる塩は生命にとり不可欠の重要な役割を果たしている。海水は無尽蔵の資源である。岩橋英夫さん(三菱重工業)らの進める海水の淡水化プロジェクトも、水不足の顕在化する21世紀にあって、今後ともに注目すべき重要な取り組みである。海はプラスともマイナスともなりうる物質やモノを運ぶ両刃の世界だ。人間にとり、海への多様な対応こそが未来への道につながる。(秋道)

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