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第201号( 2008.12.20 発行)
第201号(2008.12.20 発行)

水不足の解消へ--海水の淡水化

[KEYWORDS]海水淡水化/逆浸透(RO)/水資源
三菱重工業(株)長崎造船所プラント技術部主幹プロジェクト統括◆岩橋英夫

21世紀は水の世紀と呼ばれるほど、水不足は世界的に深刻になりつつあり、海水の淡水化技術は貴重な水資源を提供する手段として期待されている。
なかでも逆浸透(RO)膜を用いる海水淡水化技術は低エネルギーコストという特徴から近年急速に普及が進んでおり、今後の水問題を解決する一つの有力な手段として注目されている。

1.はじめに

世界の大型RO法海水淡水化プラント

21世紀は水の世紀と呼ばれるほど、世界的な水不足は深刻になりつつある。その中で海水淡水化技術の占める役割は、貴重な水資源を提供する手段としてますます重要になり、世界ではここ数年、年間100~200万m3/日規模の設備が建設されている。特に逆浸透(Reverse Osmosis, RO)膜を用いる海水淡水化は蒸発法と比較して、低エネルギーコストという特徴から近年急速に普及が進んでおり、造水量10万m3/日を超えるプラントも複数稼働している(表1)。水不足の一層の深刻化および技術開発による造水コストの低減により、RO海水淡水化は今後ますますその市場が拡大していくものと期待される。
しかし、RO法は蒸発法に比べ、原海水の水質に影響を受けやすいことも事実であり、その安定運転には海水性状の把握とそれに応じた運転が必要となる。また、プラントからは1.5~2.5倍程度濃縮された海水が排出される。当社は1980年代後半からRO法を主として中東地域でプラントを建設してきており、さまざまな経験を有している。ここではRO海水淡水化プラントの概要を紹介するとともに、環境との調和を図りながら、水資源問題へ貢献できるRO海水淡水化技術について考えてみたい。

2.海水淡水化プラントの概要

RO海水淡水化プラントのフローシート

RO海水淡水化システムのフローシートの例を図1に示す。
RO海水淡水化設備では、取水設備より海水を取り入れ、砂ろ過装置などの前処理設備で海水中の懸濁物質などRO膜に影響を与える物質を取り除いた後、昇圧設備(高圧ポンプ)で加圧し、RO膜に供給する。透過水は水質の要求に応じて、低圧RO処理、硬度分添加等の後処理を行い生産水とする。また、濃縮水は、エネルギー回収装置でエネルギーを回収した後、放流設備より放出される。
このシステムのキーはRO膜である。現在、RO膜による塩分の除去率は、99.5%以上に達しており、平均的な濃度の海水であれば、一段のRO膜処理で飲料水として利用可能なレベルまで塩分を除去できる。膜材質としては現在2種類用いられている。ひとつは三酢酸セルロース製の中空糸膜、もう一種類はポリアミド製のスパイラル膜である。いずれもイオンを分離できる膜であり、孔径はÅ(オングストローム)※1オーダーと考えられる。さらに、コンパクトな設備で多量の海水を処理するために、膜を集積した膜モジュールでは、1mm以下の細い流路に海水を通過させる。したがって、膜モジュールに供給する海水から、膜表面や膜モジュールの流路内で目詰まりを引き起こす汚れ成分(濁質、有機物、微生物)を取り除くこと、言い換えれば膜に供給する海水の性状を制御することがプラント安定運転の最大のポイントとなる。

3.プラントの計画、運転と海水の分析評価

RO海水淡水化プラントを計画する場合、使用する膜モジュールの本数や運転圧力は、塩分、海水温度に左右される。特に年間で変動がある場合にはその範囲も把握しなければならない。RO膜への海水性状を制御するためには、適切な前処理方法及びその運転条件を選定する必要があるが、その場合にも、海水中の濁質、重金属、有機物などの正確な情報が必要である。また、膜モジュール内での微生物の繁殖が目詰まりの一因となるが、その場合、繁殖した微生物の同定が対策の立案につながる。このように、海水に関する分析技術はRO海水淡水化のプラントメーカーにとっては重要な技術であり、われわれはその動向を継続的にウォッチしている。

4.環境影響の低減

RO海水淡水化プラントでは、海水の取水、濃縮水の放流、前処理設備から排出されるスラッジ等の廃棄物が環境に影響を与える主な要因である。これらに対して、博多市海の中道で福岡地区水道企業団が運営している「まみずピア」という愛称のRO海水淡水化プラント(5万t/日)にひとつの理想の姿を見ることができる。
このプラントでは、取水には浸透取水という方法が用いられている。これは、海岸線から数百m沖合の砂地の海底に穴あきパイプを埋設しそこから取水するもので、砂層がフィルターの役目を果たしている。取水された海水は限外ろ過膜で処理後、RO膜に供給され、ここでもほとんど薬品は使用されず、スラッジの排出も少ない。さらに、放流時には近隣の下水処理場の処理水と混合し、海水と同じ濃度で放流しており、塩濃度変化による環境影響を防止している。

5.自然エネルギーの活用

RO海水淡水化に必要なエネルギーは、液体を加圧するエネルギーであり、通常は電気でポンプを駆動している。そのため、石油等の化石燃料の消費を伴い、炭酸ガスの発生源となる。地球温暖化問題が叫ばれる中、RO海水淡水化でも、できるだけ炭酸ガス発生量の少ないエネルギー源を利用する必要がある。すなわち自然エネルギーの利用である。
また、RO海水淡水化では、たとえば波力で直接ポンプを駆動するなど、海水を加圧し膜モジュールに供給できれば造水できる。すなわち、運動エネルギーを電気エネルギーに変換することなく水を得ることが可能である。各種自然エネルギーのRO海水淡水化への適用については今後もその実用化への取り組みが期待される。

6.終わりに

RO海水淡水化のさらなる普及を図るには、信頼性向上、造水コスト低減、環境影響の最小化が大きな課題である。信頼性向上の大きな鍵は、海水の性状を正確に把握し、適切な前処理技術を選定することである。これにより、RO膜性能を長期間維持でき、コスト低減も可能となる。そのためには、エンジニアリングメーカー、膜メーカーだけではなく、海水、海洋に関する研究者の協力も得て、原海水水質に応じたRO海水淡水化システムの全体最適化を進めていくことが強く望まれる。これにより、RO海水淡水化は今後の水問題を解決する一つの有力な手段となるであろう。(了)

※1 オングストローム(ångström, 記号:Å)は長さの単位。1Åは10-10m = 0.1ナノメートル(nm) = 100ピコメートル(pm)。国際単位系(SI)の正式な単位ではないが、日本の計量法では、電磁波の波長、膜の厚さ、表面の粗さ、結晶格子にかかわる長さの計量にのみ使用することを認めている。
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