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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第195号( 2008.09.20 発行)
第195号(2008.09.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆1979年、ある条約が当時の西ドイツ・ボンで採択された。通称、ボン条約と呼ばれ、1983年11月に施行されたのは、移動性のある野生動物の保護に関する条約である。国を超えて移動する野生動物は、人間活動による生息地の縮小と分断、さらには直接的な捕獲圧の増大によって個体数が減少し、あるものは絶滅の危機に見舞われてきた。海ではクジラ、ウミガメ、ジュゴン、本誌で佐藤文男氏が取り上げているアホウドリもそうである。アホウドリはその羽毛が人間の快適な眠りをもたらす商品として乱獲された。日本では伊豆諸島の鳥島に繁殖地があったが、絶滅宣言の昭和24年から奇跡に近い形で復活しつつある。緊急避難の対策が功を奏したのだ。ただし、これをもってめでたしということにはならない。過去における乱獲の免罪符とすべきでもない。この先、アホウドリが増え続け、日本近海の魚類を大量に索餌するようになれば、別の問題が生じる可能性がある。アホウドリが漁業資源を奪うという意見が将来出てくるかもしれない。
◆北西太平洋では、増えたミンククジラがイカ、サンマなどを大量に食べるようになった。このため、人間の利用する漁業資源を守るために、クジラの捕獲を進めるべきとする意見がある。もちろん、クジラだけが魚を消費しているのではない。韓国船によるサンマ、イカなどの大量漁獲も重要な影響を与える。
◆海の生態系はつねに変動している。このなかで、利害の一致ないし異なる集団や国家間で人間活動を制御することは至難のことである。しかし、人間の利益だけを考えて議論すべきではけっしてない。移動性のある資源は、たいていの場合、繁殖地と索餌地のあいだを移動する。それゆえ、これらの野生動物にたいしては、関係する国や地域がそれを共有財産として情報を収集し、適正に管理する必要がある。
◆生物資源だけにかぎらず、海洋に関するあらゆる情報の集積と共有はますますその重要性を高めつつあるが、この種のデータ蓄積は遅れている。G・L・ホランド氏は、政府間海洋学委員会(IOC)の果たしてきた役割が過小評価されてきた経緯を批判している。氏はとくに海洋環境に関する情報の重要性を提起するなかで、すでにある国連海洋法条約(UNCLOS)が過去のものになっていると手厳しい。海に関する条約や取り決めにはさまざまな種類のものがあり、制定された経緯も一様ではない。むしろ、個々の取り決めが条約間でどのような整合をするのかを検討する試みが早急になされる必要がある。羽毛製の枕を高くして眠るなどは、まだまだ先のことなのだ。 (秋道)

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