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オーシャンニューズレター

第198号(2008.11.05発行)

第198号(2008.11.05 発行)

海賊と日印関係

[KEYWORDS]海賊/国際協力/海上保安
元インド沿岸警備隊長官、海洋政策研究財団客員研究員◆Prabhakaran Paleri

海賊行為の蔓延には浮き沈みがあるものの、過去、いかなる政府もその根絶に成功していない。
海賊は今も存在しているし、手段や形態は変化し、テロとなっていくかもしれない。
アロンドラ・レインボー号事件を契機とし、日印は海賊を根絶するための協力体制を構築し、取り組んでいる。
航路や通商路の中で海賊行為が発生しそうな場所についての調査や、航海の安全を確保するための協力メカニズムのための詳細な調査が行われる必要がある。

海賊行為とは

「子どものころは海賊を夢みていた」と多くのおとなたちは言うだろう。子どもたちは漫画、記念品、商品、アニメ、ビデオ、映画を通じて海賊と出合う。海賊ほど称賛される犯罪者は他にない。私自身が子どものころ海賊になりたいと思っていたかどうかは覚えていないが、1970年代後半に同僚や先輩たちとともにインド沿岸警備隊を作り上げようと苦心していたとき、世界中で海賊問題が深刻になっていると感じたのは確かである。
海賊行為は、水上を船が走るようになって以来、いつの世にも存在している。初期の海賊は沿岸部の村落を襲うために海を使ったが、中には内陸奥深くまで襲撃するものもいた。大海原のかなたまで出るようになると、海賊行為の形式と方法が変化した。彼らは次第に海上のみを活動の場とするようになり、もはや海岸の町を襲うことはなくなったが、沿岸の町を隠れ家やアジトにしてさらに悪事をたくらむようになった。重要なのは、海賊行為の蔓延には株式市場と同じように浮き沈みがあるものの、いかなる政府もその根絶に成功していないということである。かつて、若かりし頃のジュリアス・シーザーも、身代金目当てで恐ろしいキリキアの海賊に誘拐された。解放された後、シーザーは海賊を一掃したが、その後継者の時代になると海賊はあっさり力を盛り返し、海賊の「黄金時代」になった。海賊は今も存在しているし、今後もほぼ間違いなく存在するだろう。手段や形態は変化し、テロとなっていくかもしれない。コンテナ船は海賊だけではなくテロにも利用されるかもしれないし、また古代の海賊のように、海で襲撃し、海から海岸を越えて襲撃するという古い手口が復活するかもしれない。海のテロリストが放射性物質を搭載したミサイルを海から内陸深く打ち込むのを止める術は何もない。今日、海は、テロリストたちが危険な積荷や好戦的な傭兵を移動させるサプライチェーンとなっている。今後はそれも変化するかもしれない。
現代では、あらゆる形の海賊が存在する。法執行機関の警備が行き届いていない国の港には、たいてい貧困からこそ泥に走るものや、停泊中の船を襲う強盗がいる。一方、公海上ではもっと組織的な海賊が横行している。中には正式な命令系統を持つ強力な犯罪組織に属しているものもある。彼らは犠牲者に暴力をふるうことも厭わない。船を乗っ取り、積荷を奪い、その船を幽霊船として走らせるという任務を実行するために極端な手段を使う。被害者にとっては、たとえ襲撃を生き延びたとしても、その経験は一生のトラウマになる。

日印協力と国際的な取締りの広がり

インドには組織的な海賊行為はない。一部の港や停泊地で、その日の水揚げがなかった漁民など、ごく普通のボートピープルが盗みを働くことはあった。彼らはデッキに見張りを置かずに停泊している船に乗り込み、生計を立てるために衣服を盗んだ。インド沿岸警備隊はそれを一掃した。このことはロンドンの国際海事局によって認定されている。
しかし、インド沿岸警備隊は、乗っ取られた日本の船アロンドラ・レインボー号が幽霊船としての転売交渉のためにペルシャ湾に向かう途中に大胆にもインドの領海を横切るまで、南シナ海の犯罪組織のメンバーを逮捕する(1999年7月15日)ことになるとは思いもしなかった。それは、日印関係に新しいページを開くことになった。両国の首相が、共同で海賊を根絶するための協力体制の構築に乗り出したからである。この取り組みは功を奏した。現在、日印関係と民間協力の新たな取り組みが展開している。私は、その後のアジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)※1を含め、こうした動きのすべてに参加し、またオブザーバーとなってきた。主に南シナ海の海賊問題に対処するこのイニシアチブをさらに活用していくのは、日本とインド両国の責任である。
その間にも、海賊は、局地化した組織犯罪ビジネスとして、世界の多くの場所にその触手を伸ばしている。アフリカ大陸では新しいタイプの海賊行為が見られる。氏族による民兵を持つソマリアで海賊行為が大きな収入源になる一方、メディアの報道によると、石油の豊富なニジェール・デルタ地帯の海賊は、自分たちを大規模な投機の投資家とみなすようになっているということである※2。身代金目的の誘拐やナイジェリア海軍への攻撃が行われている。また、これらの海賊はこの地域に暮らす弱者、すなわち漁師を金のなる木とみなすようになった。漁師たちが朝までに獲物がかかるように願いながら網を張ってから眠ると、深夜、船に乗り込んできた海賊のマシンガンの銃撃で起こされ、しばしば撃たれて命を落とす。その間に海賊はすべてを持ち去るのである。海賊による沖合いの産油施設の襲撃や誘拐も続いている。米国の欧州方面指令軍の知るところによれば、ギニア湾岸警備隊はこの地域のパトロールを実施するようであり※3、中央および西アフリカ諸国も、共同で大陸沿岸警備を行うよう計画している※4。しかし、無法状態がもたらす負担が最も大きくのしかかるのは、底辺の人々―この場合はニジェール・デルタ地帯の漁師である。ナイジェリアのトロール漁船所有者協会によると、2007年に漁民が襲われた事件は107件にのぼった。襲撃は増加している。

海賊多発海域
アロンドラ・レインボー号事件でインド沿岸警備隊が捕えた海賊たち。
アロンドラ・レインボー号事件でインド沿岸警備隊が捕えた海賊たち。

今後の取り組み

こうした状況に照らし、航路や通商路の中でこれから海賊行為が発生しそうな場所について調査を行うことが重要である。それは、地域内で優勢な社会、政治、経済の制度に左右される。現在調査が行われている北極海航路も不法行為に対して脆弱となるかもしれない※5。航海の安全を確保するための協力メカニズムによってそうした不法行為を抑制することを目的として、詳細な調査が行われる必要がある。(了)

※1 「アジア海賊対策地域協力協定」(ReCAAP):海賊に関する情報共有体制と各国協力網の構築を通じて海上保安機関間の協力強化を図ることを目的として作られた協定(2006年9月4日発効)。締結国は、日本、シンガポール、ラオス、タイ、フィリピン、ミャンマー、韓国、カンボジア、ベトナム、インド、スリランカ、ブルネイ、中国およびバングラデシュの14カ国(平成19年5月現在)。海洋安全情報月報、2006年6月号15-18P参照。
※2 Will Connors「デルタ地帯の海賊は今やナイジェリアの小さな魚を狙う」 International Herald and Tribune紙、東京版、2008年6月13日、p. 2.
※4 「西アフリカ・中央アフリカ諸国、地域の沿岸警備ネットワーク作りに協力」http://www.imo.org、2008年9月2日
※5 筆者が外部研究者としてニューデリーの防衛研究分析所のために行った調査『海上不法行為の情勢』に基づく。これは特定の地域の研究ではない。

● 本稿の原文(英文)は当財団のHPでご覧いただけます。

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