Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第197号(2008.10.20発行)

第197号(2008.10.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆日本にはいくつもの世界遺産がある。北海道から沖縄まで、遺産地域では多様なツーリズムがさかんだ。最近では石見銀山が脚光を浴びているし、平泉が惜しくもペンディング状態である。これらは陸のサイトがほとんどで、海の世界に目を向ける人はほとんどない。沖縄の八重山諸島などはその有力な候補だが、いろいろと課題もありそうだ。海では核心領域として保護する海中保護区、海中国立公園などの例があるものの、陸のように緩衝領域や移行領域を設けることにどれほどの意味があるのか、検討の余地がある。
◆本誌でユネスコ文化局の高橋暁さんは、水中文化遺産についての国際協力の必要性を提案されている。水中にある人類の残したさまざまな文化遺産をまもっていくことへの認識を高めるためにも、わが国周辺海域における水中文化遺産について基本的な調査と将来計画を進めるべきだろう。国際発信していくさい、国による制度面の多様性を踏まえることはとくに重要である。国連海洋法のような海の憲法だけがすべてではない。海洋法の成立後、ここ10年に海をめぐるさまざまな問題が新たに浮上してきたからだ。
◆早稲田大学の箱井崇史さんは、あえて「総合海法」なのだと主張するなかで、海事に関する法研究の体系化、総合化を目指すべきことを提案されている。このような考えがグローバル時代にある現在、日本で認識されるようになったことは特筆すべきだ。先の水中文化遺産をめぐる国内法整備の取り組みは、縦割りを越えた海の統合研究と政策立案のための有力な契機になることだけはたしかだ。では、その事業を担当し、推進するのはだれかと問われれば、あまりにも利害関係者が広範に及ぶのでどこから手をつけたらよいか、多くの識者であっても当惑するのがふつうかもしれない。
◆法整備には、多様な事例を踏まえた統合化、一般化を進める必要があろうが、まずは情報の発信と集約化が肝要である。尾道市長の平谷祐宏さんは地元尾道の財産である海との長い関わりについてとてもよいご発言をされている。地元ならではの知と内部事情に明るいという前提が外部への発信の力となる。それと同時に、地域からの発信を受け止めるレセプター(受容器)ないし、情報を共有化するためのネットワーク型のシステムがどうしても必要だ。この場合のネットワーク化が中央集権的な頭脳を前提とするのかについては少々議論のあるところだ。海の世界のように茫漠として問題群の多い場合、ネットワーク化の推進がまず重要ではないか。平谷さんの熱弁と箱井さん、高橋さんの焦りにも似たお気持ちが日本における海の総合研究の現実を象徴しているといっても過言でない。日本が海への対応をいかに進めるかを考えるうえで、海の情報の大脳化、ネットワーク化について、皆さんはどのようにお考えだろうか。  (秋道)

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