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オーシャンニューズレター

第150号(2006.11.05発行)

第150号(2006.11.05 発行)

高機能型浮体式構造物への期待

マリンフロート推進機構専務理事◆岡村秀夫

内部空間利用や免震性を生かした高機能型浮体構造物の事例として
浮体式コンテナターミナル、LNG受入貯蔵基地、洋上原子力発電の提案を紹介したい。
わが国の海洋産業が発展し、高機能型浮体構造物がますます活用されることを期待している。

1.高機能型浮体式構造物の実現を目指して

浮体式構造物の実現を目指して、平成2年に16業種から114社の企業が参加してマリンフロート推進機構が発足した。浮体式構造物を活用した各種アイディアを提案し、その実現を目指して推進活動がなされ今日に至っている。浮体式構造物としては、国内では石油備蓄基地、浮体式ホテル、防災基地、浮体式橋梁、浮体式桟橋、メガフロート空港モデル、イベント会場などの実績があり、海外では浮体式長大橋、浮体式レストラン、浮体式コンテナターミナル、浮体式ヘリポートなどが実用に供されている。最近、韓国が赤道上に移動した浮体式ロケット発射基地から人工衛星を打ち上げたとの報道が注目されている※1。ここでは、浮体式構造物の本来の特長である海上・海中空間の活用、船舶の接岸が容易なこと、耐震性に優れていることを利用した高機能型浮体式構造物に絞って新しい提案を紹介する。

2.大水深対応型浮体式コンテナターミナル

■図1 大水深対応型浮体式コンテナターミナル

大水深で地盤条件が悪い場合には、浮体式構造物を活用した大水深対応型浮体式コンテナターミナルが相対的に有利となると考えられる。積載コンテナ数が13,000TEUクラスの超大型コンテナ船を対象としたコンテナターミナルの検討が国内外で進められている。図1は当推進機構の港湾施設小委員会から提案したコンテナターミナル※2のイメージである。このコンテナターミナルは、ドック式バースの採用により両岸荷役が可能で、門型クレーンにより従来型片舷クレーンの4倍の荷役能力になる。さらに、浮体内部空間がコンテナヤード等に利用可能であり、移動開閉ゲートの採用によりコンテナ荷役時の移送車両のスムーズな動線を確保できる。また、船舶接舷支援システムの装備により自動離着桟・係留が可能などの特徴を有している。これにより、次世代のさらなるコンテナ船の大型傾向に対する港湾インフラ整備解決の有効な一手段として考えられている。

3.LNG受入貯蔵基地構想

■図2 LNG受入貯蔵基地

石油の高騰および地球温暖化防止策として化石燃料中最もCO2発生量の少ないLNGに注目が集まっている。非常時に備えた石油の国家備蓄が1988年から上五島、白島で開始されているが、当推進機構では、石油に変わる代替エネルギーの備蓄として、95年に千葉県館山沖合を想定した大規模洋上LNG基地構想を発表している。昨年、(財)日本造船技術センターと共同して、米国カリフォルニア州サンタバーバラ沖合を想定した水深100mの大水深海域に設置するLNG受入貯蔵基地の基本検討を実施した(図2参照)。本基地はLNGの受入・ガス化・払い出し機能に加えて、100万tのLNG貯蔵能力を有するものとしている。冷熱を有効利用するために、2万kWのMFRランキンサイクル冷熱発電設備※3および50万m3の大容量冷凍・冷蔵倉庫を併設している。このためにLNG船用および冷凍コンテナ船用バースを各1カ所設置している。また発電した電力は基地内の負荷に供給するものとした。浮体寸法は500m×600m×10/38mの箱形とし、16本のチェーン・アンカー係留で概略検討を行った。

LNG洋上ターミナルの実績としては、メキシコ湾でGulf Gateway Energy Bridgeが2005年にLNGの受入を開始しており、再ガス化装置搭載型特殊LNG船(EBRV:Energy Bridge Re-gasification Vessels)が海底パイプライン上のブイに連結され、船上で再ガス化された天然ガスをブイからパイプラインに送り込む形式である。米国では現在10件のLNG洋上ターミナルプロジェクトが申請されている。計画されている洋上ターミナルには、上述の他に、LNG貯蔵と再ガス化プラントを搭載した浮体式のもの、コンクリート製の着底式タイプ、海底の巨大岩塩ドームをガスタンクに利用し、既存のプラットフォームと組合せる案などが報告されている。

エネルギーの脱石油政策が進められる中、埋蔵量も多く公害も少ないLNGの需要が大幅に増加しており、より安全で安心できる洋上受入貯蔵基地がわが国でも必要になるものと推察される。

4.洋上原子力発電構想

原子力発電所の立地については、歴史的な原子力アレルギーから具体的立地検討段階になると激しい一般住民からの反対運動に直面している。とくに、ロシアのチェルノブイリや米国のスリーマイル島の事故があり、原子力発電所の新設工事は長期間にわたり停滞している。しかし、人類の将来のエネルギー需給バランスと地球環境保全を考慮すると再び原子力エネルギーの活用を積極的に進めて行くことが不可欠となってきている。現実的な要因としては、第一に石油の生産量の先行き不安と中国の消費拡大に伴い石油価格の高騰が続いていること、第二に地球温暖化が進み気候変動が激しくなり、その対応策としてCO2を排出しない原子力発電を真剣に検討すべき状況になっていることである。

日本は世界第三位の原子力発電量(4,958万kW)であり、原子力発電所55基がすでに設置されている。過去に放射能漏れの事故が発生して社会問題となっているが、中長期的には既存の原子力発電所の維持管理強化による稼働延長や新型プラントへの取り替えが重要課題となってきている。その技術的検討の一つとして耐震性に優れた浮体式原子力発電所を検討することが必要になるものと考えている。世界で初めて「海に浮かぶ原発」をロシアが来年着工して2010年秋に稼働を目指しているとタス通信などが伝えている※4。浮体式原子力発電所の熱エネルギーコストは火力発電所の半分以下と報じられており、広大なロシアの沿岸域や北方遠隔地が抱える電力問題への最も有効な解決策になると期待されている。

5.おわりに

浮体式海洋構造物は、アクアポリスに代表される1970年代の第一次海洋開発の時代、上五島・白島石油備蓄が建設された1990年代の第二次海洋開発の時代を経て、メガフロート空港モデルや艦載機訓練用飛行場としての空港利用が注目され現在に至っている。

昨今話題となっている地球温暖化対策やEEZ周辺海域管理に関して、政官民学がそれぞれの立場で海洋の重要性を認識し、新しい海洋政策の策定や法制度面から海洋基本法制定を目指す動きが加速している。その中で海洋産業振興は重要課題になると想定され、そのハード面において基盤となる高機能型浮体式構造物が大いに活用されるものと期待する。(了)


※1 AlcatelAleniaSpace社が、韓国の民・軍共用の通信衛星「Koreasat 5」(ムグンファ5号)の打上げをグリニッジ標準時8月22日午前3時27分に、西経154度の赤道上から 多国籍会社Sea Launch社の大型セミサブ・プラットフォームから Zenith-3SL ロケットによって実施。
※2 (財)沿岸技術研究センター、(財)日本造船技術センターとの共同研究報告書「大規模浮体構造物の実用化に関する研究報告書-浮体式コンテナターミナル編-」を発行。
※3 MFRランキンサイクル冷熱発電=メタン・エタン等の混合を作動流体の冷媒とし、海水を温熱源、LNG を冷熱源として、気相・液相の相変化を伴うもので、原理は通常のスチームタービンと同様。
※4 ロシアの原子力発電所を管理する国営企業ロスエネルゴアトム社は6月14日、海上に浮かぶ原発を世界で初めて、露北西部の白海に面したセベロドビンスクで建設する契約を業者と締結した。タス通信などが伝えた。(読売新聞モスクワ発2006/6/15)

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