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創刊予告号(2000.07.20 発行)
創刊予告号(2000.07.20 発行)

いま、なぜ海洋シンクタンクが必要なのか

日本財団理事長◆笹川陽平

これから始まる21世紀を展望するとき、人類の生存基盤として海洋は非常に重要な 役割を担っています。20世紀後半になって、人類は初めて宇宙から地球を見て、それが水の惑星であり、水に覆われた表面の所々に島が浮かぶ多島海であることを改めて実感しました。

海は、生命の母であり、水産や鉱物資源、物資の輸送、レクリエーションなどで人類の生活や経済活動に大いに役立っています。また、その大量の水によって地球上の温度の急激な変化を緩和し、海から蒸発する水が雨となって森を育て、農地を潤して私たちの住みよい環境づくりに貢献しています。

しかし、人類が、海の無限の包容力を信じて海洋の開発、利用を進めた結果、20世紀後半になると世界各地で海洋の汚染、資源の枯渇、環境の破壊などが顕在化しました。海は、私たちが思っていたほど大きな包容力を持ってはいなかったのです。

このことは、私たちに発想の転換を要請しています。今までは、広大無限な海洋を誰でも自由に開発、利用することができる「海洋の自由」が基本でした。これからは、これに代わって、人類の生存基盤として重要な海洋を総合的に管理し、将来の世代に海の恩恵を引き継いでいく「海洋管理」の考え方にたって、海洋に対していかなければなりません。

20世紀後半は、人類が海洋管理へ向けて大きな第一歩を踏み出した時として歴史に記憶されるべきでしょう。長い年月と、国々の利害と、そして多くの人々の英知とを注ぎ込んで国連海洋法条約が1994年発効しました。また、1992年リオで開かれた地球サミットは「持続可能な開発」を宣言し、行動計画アジェンダ21を採択しました。これにより、人類、そして世界の国々が海洋の開発、利用、保全に取組む共通の枠組みができ、海洋管理への取組みが地球規模でスタートしたのです。

海洋法条約は、沿岸国に200海里までの排他的経済水域における主権的権利や管轄権を認める一方、海洋環境の保護や保全の義務を課しています。このことを踏まえて、近年世界の国々は、海洋政策の策定、これを推進する行政・研究組織の統廃合、広範な利用者の意見を反映する手続きの制定などを行い、沿岸域を含むすべての管轄海域の総合的な管理に熱心に取り組んでいます。また、海洋管理の進め方を巡って、政府機関、NGO、研究者等様々なレベルで国際会議が開かれ、インターネットなどを通じての交流が活発に行われています。

わが国は、世界で6番目の広大な排他的経済水域を有していると言われ、自他共に認める海洋国です。造船、海運、水産、科学技術など多くの個別分野で世界のトップ水準にあります。しかし、残念ながら世界的な潮流である「海洋管理」の重要性の認識が薄く、海洋問題への総合的な取組みという点で各国に比較して遅れていると言わざるを得ません。海洋行政は10以上の省庁に細分されたままであり、行政の垣根は非政府部門の活動や研究にも分断の影を落としています。

わが国は、わが国の広大な管轄海域において海洋法条約上の権利義務を踏まえて海洋の総合的管理に積極的に取組むとともに、国際的にも海洋国のリーダーとして海洋管理の進め方を巡る国際協議、技術移転、資金協力などで主導的役割を発揮すべきであります。しかしながら現状は、総合的な取組み体制が整っていないため、国際会議やインターネットを通じて急速に構築されつつある海洋管理の国際ネットワークからも取り残されがちです。

思えばわが国は、第二次世界大戦の苦い経験とその後の冷戦時代の展開の中で海洋を政策課題として取り上げることを避けてきて、今となってはそれが当たり前となっているのかもしれません。しかし、この半世紀の間に人類と海洋の関係は大きく変わりました。私たちは、海洋のパラダイムが転換したことを自覚して、21世紀にふさわしい海洋政策の早急な樹立を目指さなければなりません。そのためには、人類と海洋の関わりの広範なことに鑑み、海洋管理に広く衆知を集めて取組む必要があります。

その一助とするため、このたび日本財団およびシップ・アンド・オーシャン財団は、内外の研究者の協力を得て、個々の行政区分や専門領域に捕らわれない自由な立場で総合的な海洋管理の諸問題を調査研究し、内外に政策提言を行うことを目的として海洋シンクタンクを立ち上げました。このニューズレターは、海洋問題に関心を持つ皆様に、この海洋シンクタンクの活動をお知らせするホットラインとして、また、海洋に関する総合的な議論を行う場として発行するものです。これを契機にわが国に海洋政策に関する議論が澎湃として起こることを期待します。

平成12年7月

日本財団理事長    笹川  陽平

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